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 odic.ne.jp library 明月記台本10/16
 by:大阪演劇情報センター+未知座小劇場 更新日:
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明月記


挨拶  意味論からの舞台への接近


           挨拶。
           挨拶はこれから始まることに無責任に期待を抱かせ、なりふりかまわず煽る
           内容。
           意味についての本質論を演技として展開。
   挨拶   (即興)…
   挨拶   (中略)隅から隅までー(ツテがチョンと一発)おん願いあげます。
           ツテがチョンチョンチョン……おおきくチョン。

さだめ川 あるいははだか舞台と物と身体

           同時に幕が振り落とされる。女Bが傘をさし背をむけている。
           同時に音楽。ちあきなおみの『さだめ川』大きく流れる。
           同時に女A傘をさして袖幕から登場。女Aは女Bのライフマスクの仮面をし
           ている。
           女Bゆっくり振り向く。女Bは女Aのライフマスクの仮面をしている。
           これから舞台で使うものを女A、女Bが運び出す。
           呼吸と腰(重心)を動く。袖から袖へ呼吸と腰(重心)を動く。この間に
           身体を晒す。
           その短時間に見られる身体を獲得し、その身体を生きる。
           動く身体からの、感情の一瞬の激変とその復帰。
           運び込む物自体の世界をひろげる。物は人に使われその物の個性を主張し
           はじめる。物の世界を広げるとは、どのような使い方をするのか、どのよ
           うな関係を成就するのかに関わる、極めて人間的な行為である。だが舞台
           には、労働という生活がない。物は生活の場で、人と関係を結び、その有
           用性を獲得していくにもかかわらず、しかし生活を支える身体はある。
           その身体による物の発見は、新たなる物の世界である。役者たらんとする
           身体の獲得である。
           曲の最後、舞台中央で向き合う。

殺意の舟歌


           殺意が因果関係のなかで自足するとき、そこに出現するのは、古典的な殺人、
           いやそれはたんなる人殺しと見ることができる。しかし人類史などというもの
           は、この因果関係の磁場からどこまで出ていけるのかを、試そうとする、さし
           ずめラスコーリニコフであれば「神の意志」とでも呼べるものであるだろう。
           だから。次のように最初の台詞が吐かれても、なんら驚くにあたらない。
           とまれ、この場は、殺意の因果に割り入ろうとする、ひとつの黒の舟歌であ
           る。
           ポトリと女A、女Bの顔から仮面が落ちる。 

   女B   ねえあなた、人間がいつから駄目になったか知ってる?
   女A   えっ?
   女B   人間がよ…
   女A   ええ…
     
           間。

   女B   …行こうか。
   女A   どこへ?
   女B   あっちの方へ。
   女A   だめよ。
   女B   なぜ?
   女A   待つんでしょ。
   女B   あっ、そうだった。
   女A   なにを、しようか?
   女B   待つんでしょ。
   女A   そうだった。
   女B   ねえ。
   女A   えっ?
   女B   あなた、わたしたち老人のありがたい三こと健康法ってしっている?
   女A   えっ?
   女B   だめねえ、なんにも知らないんだから。いい?▲?爾鬚劼?覆い海函△海蹐个覆い魁?
        と、そしてこれが大切で、でも考え過ぎちゃダメよ。いい、義理を欠くこと。という
        のはね心をくだいて、誰に義理を欠こうかなんて、思い詰めて、心臓悪くしちゃった
        おばあちゃんもあるくらいだから、いくら三こと健康法っていったって、程ほどって
        もんなのよ。それにちょっと聞いていただける。わたしがね、昨日、暑かったじゃな
        い、スーパーに行ったのよ。わたしだってスーパーぐらいにはいきますよ、入るなり
        いやーな顔するのよ店員が。クラーク・ケントと待ち合わせにスーパーに来たんじゃ
        ないって言ってやったのよ。あなたもこんど行ったとき言ってやって、まったく、そ
        の女店員なんてのたまったと思う。おばあちゃんここはスーパーなんです、いくら暑
        いたって涼みに来るところじゃないんですよ、ですって。なんなんでしょね。礼儀を
        知らないのにも程がありますよ。わたしがスーパーが買い物するところというのを知
        らないとでも思ったんでしょうかねえ。そりゃ、鮮魚売り場の前には、少しだけ長く
        いましたよ。でも、人に後ろ指さされるほどじゃありませんでしたよ。そのく?蕕い?
        礼儀をわきまえなくっ世間に隣のかわいいおばあちゃんなんて顔はできません。
   女B   (笑う)… 
   女A   ねえあなた、人間がいつから駄目になったかしっている?
   女B   えっ?
   女A   人間がよ…
   女B   ええ…
女A・女B   それはね人間が人を、心底憎んで殺さなくなってからよ。
   女A   人間がよ… 
   女B   心底憎んで、人を殺さなくなってからよね。
女A・女B   こうして… 

           と、二人は首を絞めた。
  
   女A   今日も、暑いわねえ。
   女B   (手を放している)ええ。
   女A   氷をほうばってカリッ
   女B   ほんとうに。
   女A   昼寝もこう暑くっちゃ… 
   女B   打ち水するのもおっくうね、一雨くれば気も晴れるんだけど。
   女A   苦しいんでしょ。
   女B   どうして。
   女A   首を絞めてるんですもの。
   女B   どうして、そんなこと聴くのって聞いてるの。
   女A   苦しいだけなんだろうかって…
   女B   聞いてみたら?
   女A   だから聞いてんじゃない。
   女B   だれに?
   女A   あなたによ。
   女B   あたしがあたしに聞いてもだめよ。
   女A   だって、首よ、息できないのよ。しゃべれないじゃないの。どうやって聞けっていう
        の。答えてくれるとでも、あなたは思ったの。
   女B   だから判らないっていってるじゃない。判らなかったのよ。だからあなたにきいてる
        んじゃない。
   女A   聞いているのは、わたしでしょ。
   女B   どっちだって同じじゃない。あたししかいないんだから。
   女A   あたししかいないんでしょ。
   女B   あたししかでしょ。
   女A   思い出すのが、こわいんでしょ。
   女B   そういう、あたしがでしょ。
   女A   そういう、あたしがでしょ。
   女B   もう、消えたら。
   女A   あなたこそ消えたら。
   女B   お昼のお弁当、今日も一つなのよ。
   女A   それは、あたしの台詞。
   女B   暑いわね…
   女A   いくらいったって、こんがらがったりしやしないんだから。
   女B   もう消えて!
   女A   怖くなったのね。
   女B   あれ以上怖いものなんてなかったわ。
   女A   よくいったわねえ。
   女B   いまさらなにが怖いもんですか。
   女A   ようゆうた。
   女B   いいますわよお。
   女A   ようゆうた。
   女B   いいますわよ。
   女A   ようゆうた。
   女B   いいますわよ
   女A   おお、ようゆうた。
   女B   ええい、ゆわいでか。
   女A   ほんなら与兵衛さん、早うきてや。
   女B   すぐ行くで!南無阿弥陀仏!
   女A   嬉しい!今度こそわたしから離れぬと約束しなはるか。
   女B   するとも、死ねばええのやな。
   女A   わたしはあんたの来てくれはるのを、今日か明日かと待っているのえ。もう寂しう
        て切のうて、待切れんさかい迎えにきたのや。そんな汚い坊さんしてはらんと、わ
        たしのそばで暮らしなはれ、あんた寂しうはないのんか。
   女B   お亀、済まなんだ。わしは人に助けられ、役人にえろうどやされたが、坊主になれば
        命は助けてやると言われて、この通り、乞食坊主になったんや。お前を騙したわけや
        ない。わしが臆病者で、よう死ねんかったんじゃ。どうか許してくれ。mou
   女A   いつまでわたしを、こないにひとりぼっちしておきなはるのや。あの蜆川で言うたこ
        とは、みな嘘かえ。
   女B   嘘やない。
   女A   ほんなら与兵衛さん、早うきてや。
   女B   死なれへんかった。よう死ねんかったんや!わしは、よくよく、だめな人間や。だけ
        どな、あんときは、おまえの後追って、ほんまに死ぬ気やったんや。それだけは信じ
        てや。そして済まんけど、寿命のくるまでいかしといてや。お亀ッ!…
   女A   もうええやないか、もうええやないか、もうええやないか。いくらゆうてもせんない
        こと。お初、死場所はここに決めよう。この曾根崎の森を抜けるともう淀川や、二人
        の足ではそこまでもつまい。追手に捕まるぐらいなら、いっそここで二人して…
   女B   徳兵衛さま…もし途中で追手に捕われ、別々になっても、二人の浮名は捨てまいと用
        意してきましたが、初めの望み通り、一所で死ねるこの嬉しさ。
   女A   おおよくいうた、いさぎよう死のうやないか、のちの世の死様の手本になってみしょ
        うやないか。
   女B   ええ徳兵衛さま、そうと決まれば、さあこの帯を裂いてくださいまし。この身体乱れ
        ぬようにゆわえます。
   女A   うん。

           と、赤い帯を二つに裂き、長い赤い線となる。

   女A   此の世のなごり、夜もなごり?∋爐帽圓?海凌箸鬚燭箸佞譴个△世靴?兇瞭擦力??
   女B   一足づつに消えて行く。夢の夢こそあはれなれ。あれ数うれば曉の。七つの時が六つ
        鳴りて残る一つが今生の。鐘のひびきの聞きをさめ。
   女A   お初ッ!

           帯が裂ける。

   女B   帯は裂けましたが、主様とわたしの仲は、あの世でますます強く…
   女A   よく締まったか。
   女B   はい、よく締まりました。
   女A   お前と、この世でおうたが二人の因果。あの世では晴れて夫婦になって…
   女B   はい…
   女A   不憫はないか…
   女B   徳兵衛さま…
   女A   恨むやないで。
   女B   いつまで悲しんでもしかたありません。お経を念じる間に、ひと思いにッ…

           と、「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」

   女A   南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…

           と、ヘリコプターの飛行音きこえる。

   女A   (刺す)…

           ヘリコプターの飛行音大きくなり行き過ぎる。その後を追うように格子
           窓から指を差し視線を走らせる女A。それに女Bも加わる。しばらく視線を
           送り続ける。
           女Aの指と視線は、なしくずしに夕日を遮るようになった。

   女A   きれいな夕日やあ。
   女B   ヘリコプター…
   女A   どこに飛んでくんやろか。
   女B   あんた、毎日毎日他に聞くことないんか。
   女A   あの子もよう眺めとった。
   女B   ヘリコプターのオモチャが一番好きやった。
   女A   どこに飛んでくんやろか。
   女B   あのなあ…
   女A   …もう行こうか。
   女B   どこへ?
   女A   あっちの方へ。
   女B   だめよ。
   女A   なぜ?
   女B   待つんでしょ。
   女A   あっ、そうだった。
   女B   …なにを、しようか?
   女A   待つんでしょ。
   女B   あっそうだった。

身体と民謡との距離


          急に大きく「民謡」CI.
          宇崎竜童『八木節ロックンロール』
          動くのか、踊るのか、このような解釈が在りうるのか、身体もまた二人の早出す
          る世界も劇的である。
          「民謡」は「民謡」でありうるのか。
          民謡という日本的なるものと、いまこうある身体との距離。

漫才


          いわゆる「漫才」。「漫才」を感じさせずの導入。
          そして漫才ではなくなっていく。漫才はどこまで、どのように漫才でなくなって
          いけるのか。
          すべての意味でおもしろい事。
          「漫才」にいわゆる「ドラマ」を挿入、つまり時間をどのように劇的に私有する
          のか。
          演技における時間の問題。

   女A  あんた、どうしてそうなのダメでしょうが。
   女B  アラ、なにかいけないテーマに触れたかしら。
   女A  お砂糖ッ、理由あるの?
   女B  理由?
   女A  そうよッ、お湯をそそぐ前に、砂糖2杯もの幸福をいれたでしょ。
   女B  分相応じゃなかったかしら。
   女A  そんなことでいいの、世間のみなさまに言い訳たつの、あなたの残り少ない生活、ひょ
       っとしたらそのお砂糖きっかけに乱れてしまうかも知れないじゃない。若者に見せつけ
       てやる誠意とか謙虚さなんて微塵もなかったじゃない。
   女B  だって、いくばくもない人生、こころゆくまで、おいしくコーヒーなんて言わないわ、
       せめてインスタントコーヒー味わって飲めればって…このお腰にしみついた生活の重み
       に賭けて誓ってもいいわあたし…
   女A  そりゃあなたは公務員生活◯年満期を勤めあげてこういう生活なんですもの、年金あり
       ますもの、だれはばかることなくインスタントコーヒー飲むのにゴールドブレンドの赤
       ラベル、いーえプレジデントだっていいでしょうよ、ええ判ってますよ。それはしっか
       り、きっかり肝に命じております。判ってます。今入れたクリープ、森永ッ!
   女B  まだ、森永不買やってんの。
   女A  誰がッ?
   女B  あんたがよ。
   女A  関係ないでしょ。
   女B  ニドおいしくないでしょ。おいしいものに拐かされるもの、それは大衆。大衆論はこの
       あたりから構築しなくっちゃ。
   女A  知らないわよ。
   女B  アラ、あたし大衆よ。
   女A  ああそうよ、判ってますよ。あんたはピンからキリまで、大三元の役満で、誰が見たっ
       て親のトリプル役満海底ツモノ大衆あがり。
   女B  どういうことよ。
   女A  まいりました、ということですよ。
   女B  判りゃいいのよ。
   女A  判ってないでしょ、どうしてお湯を入れる前に砂糖を入れるのよ。2杯もよ、カップの
       中によ、取りかえしがつかないじゃないですか。
   女B  えッ
   女A  悲しいワ、あなたからそんな「えッ」なんて聞くのは、場つなぎじゃない、根拠がない
       わ、たんなる台詞割りだわ。意味ないんだったら大衆らしくやったらどうなのよ。
   女B  あなた…

          見つめあう瞳と瞳。

   女A  あなた、判ってくれたのね。
   女B  (大衆らしくやる)
   女A  (泣き落しだ)お願いだから、もうこれを最後にしてちょうだいよ。インスタントコー
       ヒー飲むときは、カップを両手で思い入れたっぷりに人肌に暖っためて、スプーン一杯
       のコーヒー、その後スプーンを変えて。
   女B  えッ?
   女A  あなたッ!
   女B  ごめんなさい。思い出した。王将のギョーザライスだった。
   女A  王将だけじゃなかったでしょうが。
   女B  そうよ、鶴橋のホルモン屋でキムチとライスと焼き肉、一つのハシで食べんの?あたし
       そんなの信じられない。あたしにはそんな勇気のいることできないわ。いい、キムチの
       しるよ。焼き肉のタレよ、ライスがまかり間違ってササニシキだってごらんなさい、ど
       んな顔して、そんなハシをササニシキにつきさしたらいいんでしょう。ああ鳥肌だつ。
       そういうのってメチャメチャすぎるんじゃない。ギョーザのタレのついたハシでご飯食
       べるなんて大衆のやることじゃない。味はどうすんの味は…
   女A  でも、日本では明治になって一つの箸でたべるようになったのよ…。
   女B  でも、江戸時代ではそういうことはなかったのよね…日本の近代化間違ってたのかしら
       ね。
   女A  判るゥ?そうなのスプーン変えるのも、ハシ変えるのも、これ近代に対する批評性なの
       です。ごらんなさい、未だかつて外食産業として資本の最先端を走る「ほっかほっか弁
       当」。あたしはあすこが最先端であるゆえ要求したいのです。しかし、あすこの持ちか
       えりの弁当にはハシは一つしかついていない。近代主義批判の微塵もないんだ。どうや
       って一つのハシでオカズとご飯を食べろというの。
   女B  ウラバシしたらいいんじゃない。
   女A  あなた、どうして、そういう場当たり的な、テクニックの問題ですり抜けようとするの
       ウラバシのどこに近代に対する批評性があるとおっしゃるのですか。あんたそれでも満
       期あけの元公務員さんッ!
   女B  公務員ってそんなものよ。
   女A  (間)だから私は「ほっかほっか弁当」はハシを二本付けるべきだと思います。このハ
       シ一本の近代主義批判がないかぎり、「ほっかほっか弁当」は今度こそつぶれます。
   女B  スプーン取っかえたらいいんでしょ。
   女A  そうなの、それだけなの。そうすればおいしくインスタントコーヒーがいただけるの。
   女B  いつもおいしくいただいていますよ、あたしは…
   女A  どうして、そんな自信に満ちあぶれた顔をして言い切ってしまうの。スプーン変えなく
       っちゃ、インスタントコーヒーがこびりついたままでしょうが、お湯と砂糖と混ぜる前
       にスプーンの上で、インスタントコーヒーと砂糖が淫乱に妥協してしまうじゃない。そ
       んなインスタントコーヒーがおいしいわけないでしょうが、誰が責任取んだよ。
   女B  あたしが取るわ… 突然聞くけど、あんた何にこだわってんの。
   女A  こだわることにこだわってんです。
   女B  そんなにこだわることないのよ。このインスタントコーヒー、お中元なんだから。
   女A  だからお中元だとか、年金で買ったとかそんなことが問題じゃないっていってんでしょ
       うが、いいですか、じゃあ、お聞きしますけど、あなたチーズ好きですか
   女B  だーい嫌いです。
   女A  じゃあ、ピザトーストは?
   女B  好き。
   女A  どうして、何故?あまりにもいいかげんすぎるんじゃなくってそういうのは、だからあ
       たしはあなたに言ったのよ。インスタントコーヒーを飲むときにはコーヒーカップを両
       手で思い入れたっぷりに人肌に暖めてスプーン一杯のコーヒーを入れ、そしてお湯を注
       ぎなさいって。コーヒーをほどよくかきまわす。次にスプーンを換えて、お砂糖を…
   女B  二杯ほど、ちょっとぜいたくかな。
   女A  糖尿にならないようにと願いを込めて二杯入れ、ゆっくりかきまわす。
   女B  ねえ?△覆拭△△燭靴郎重?鮴茲貌?譴討發いい隼廚Δ韻鼻?
   女A  どうして?それじゃこだわりなさすぎるじゃない。いい、お湯にとけたインスタント
       コーヒーに砂糖を入れてあまくしていくの。これがこつでしょ。
   女B  あたしどっちでもいいと思うけどな。
   女A  だめでしょ。こだわるの。そこんとこしっかり押さえとかなくっちゃ。こういう生活だ
       からこそインスタントコーヒー、お湯、お砂糖にこだわりぬいて生活支えんのよ。あん
       たそれ以外にこの生活支えられると思ってんの。
   女B  責任と主体性をもってやりぬいて生活の根拠にすんのね。
   女A  そうよ、あなた。そうなのよ。
   女B  でも、でもよ、インスタントコーヒーにお湯入れて砂糖入れるのとやっぱり同じじゃな
       い。
   女A  違うじゃない、決定的に違うじゃない。インスタントコーヒーとお湯に砂糖入れるのは
       こう糖分の甘さを増していくことなの。
   女B  そうよ、そ?Δ任靴隋?
   ??繊 ,世?薀ぅ鵐好織鵐肇魁璽辧爾蛤重?砲?鯑?譴襪辰討里録紊泙靴任靴隋?
   女B  湯ましじゃないの?
   女A  言葉のアヤで水ましっていうの。甘さをうすめていってしまうのよ。あんた水増しの生
       活なんかたえられて、あたしはたえられません。
   女B  住めば都ってこともあるし、体質にあったらいいんじゃない。いやだったらさ出て行け
       ばいいんだしね、元々ここあたしらの家じゃないんだから。
   女A  体質にあう訳ないでしょう、出て行きたくても出れないでしょう、こんなとこ好きでい
       るんじゃないんだからッ!

楽器演奏


          大正琴とハーモニカの合奏。  
          舞台での俳優がする楽器の可能性。いずれ楽器は変わっていくことになる
          だろう。

ゲスト・即興


          ゲストの登場。看守である。

  ゲスト  いい加減にしろ、ここがうるさいと周りから苦情がでてるんだ。何時だと思っている。

          ゲストが繰り広げるものを即興で支える。

  ゲスト  就寝時間はとっくにすぎている。早く寝るように。
女A・女B  おやすみなさい。

          ゲスト退場。

受け・打上花火


          相手をめだたせる。
          女Aが女Bを支える。
   女B  ねえ、あんた。こうやっていると二人は幸せな姉妹みたい。
   女A  何もかも瓜二つだものね。(観客の頭上を指して)あらッ、流れ星。
   女B  (見上げて)見える見える。きれいだねえ…。あッ、消えちゃった。
   女A  消えちゃった。
   女B  本当に見えた?
   女A  うん。西の空を…。
   女B  東の空じゃなかった?
   女A  西の空よ。
   女B  東の空よ。あたしは右目でみたのよ。
   女A  あたしは左目。

          二人、ニッと笑う。

   女B  あたしの右目の視力は9.2よ。
   女A  あたしの左目も9.2よ。
   二人  にてるわねえ。
   女B  あんた、ちくわ好き?
   女A  大好き。あたし直径1cmの穴のあいたちくわが好きよ。
   女B  それそれ、あたしもよ。直径1cmの穴のやつ。
   二人  似てるわねえ。
   女B  (突然自分の乳房をつかむ)どう?あんた気持ちいい?
   女A  (自分の乳房をつかんで)あんたは?どう?
   女B  あたい、夢みてるみたい。
   女A  あたいもよ。奥の方がドキドキいってるわ。
   女B  それはあんたの心臓が鳴ってるんだよ。
   女A  心臓が?
   女B  うん。
   女A  ねえ。あんた。あたしの心臓もあんたの心臓と似てるかしら?
   女B  きっとそっくりさ。切りさいて調べてみようか。
   女A  痛いよ。そりゃ。
   女B  痛いね。ごめんごめん、もうそんなこといわない。
   女A  いわないでね。
   女B  いうもんですか。
   女B  (自分のホホを軽くぶって)痛いあんた?
   女A  (自分のホホを軽くぶって)あんたは痛い?
   女B  本当に痛いのかしら?(軽くぶつ)
   女A  本当に痛いのかしらねえ?(軽くぶつ)
   女B  痛いと言うから痛いんだわ、きっと。
   女A  じゃ、ぶたれて「痛くない」といっても痛いかしら?
   女B  (強く自分のホホをぶつ)ほら!
   女A  うッ!痛くないっ。
   女B  どうなすって?
   女A  …わからない。あんたは?ほらっ(自分をぶつ)
   女B  痛くない!
   
          二人ホホをさする。
   女B  やっぱり痛いわ。
   女A  やっぱり痛いよ。

受け・曼珠沙華


          相手をめだたせる。
          女Bが女Aを支える。

          温泉につかっていました。さしずめ仙台では「一の蔵温泉」につかって身体が「
          一の蔵」に、札幌では「いくら丼温泉」につかって身体が「ウニ」になっている
          そんな様子で…。

   女A  (笑い)ああ〜ええ湯や?辰拭弔△蠅?肇??
   女B  何処いってたん?
   女A  「一の蔵温泉」気持ちよかったワ、もお身体が「一の蔵」や、ほんまに。
   女B  ギクッ。
   女A  美味し〜いつまみがあったら自分の身体飲んでもええでえ〜ほんまに。
   女B  ギクッ、ほっ、ほんまのほんま?
   女A  あかんアンパンマンよりきつい、やめとこ。それより、一杯やりまひょ。(一升瓶をあ
       けてぐいっと一杯飲む)うひょ〜おいしい〜シ・ア・ワ・セ。さあ、どうぞ(とつごう
       とするが)その前にクイズです。答えは簡単です1+1は/
   女B  ギクッ、(恐る恐る)2やっ。
   女A  ブウッ〜〜〜〜〜
   女B  ギクッ。な、なんで?
   女A  答えは簡単です。うひょひょひょひょ〜。さあ、風呂上がりの一杯、宴会しましょ。ど
       うぞ(やっとつぐ)今日のテーマは演技についてや。
   女B  ギクッ。何やそれ、演技について?聞いたことあるな。
   女A  演技とは何か?
   女B  演技とは、技を演じると書くから技を演じることや。
   女A  技って何や?
   女B  しらんわ。
   女A  えっ!技も知らんの?
   女B  私プロレスラーちゃうもん。
   女A  役者やもんな?役者じゃの〜
   女B  ふるウ〜…
   女A  演劇ってなに?
   女B  色々あるがな、面白い演劇、面白くない演劇、静かな演劇、うるさい演劇、つまらない
       演劇、どうしようもない演劇(何やかんや並べる)…
   女A  ちょと待てっエ、それみんな演劇の仲間か?誰が決めたんや?
   女B  誰でもない、感想や。
   女A  法律で取り締まったらええのになあ〜。
   女B  今、私ら何やってるとおもてんの?
   女A  芝居の本番中や。
   女B  ギクッ、こんなんでええの?こんなことで。罰せられへん?
   女A  法律は単なる提案や。ギクッ、やけどお客さんにおこられるかもしれへんな。
   女B  ギクッ、一升、無くなってしもうた。
   女A  誰の一生や?
   女B  私ら二人の女のイッショウや。
   女A  エンギでもないこと云わんといて。
   女B  何云うてんの、これは演技や。技を演じなさい。
   女A  ギクッ。…踊ります(女Bの歌に合わせ女A「割り箸踊り」ひと振り)
   女A  ありがとう。ちょっとは芝居に戻ったかな?
   女B  全然、まったく。
   女A  ギクッ(カバンの中から聖書を2冊取り出し1冊を女Bへ)はじめます。
   女A  今から、私卵をうみます。
   女B  今から、私卵をうみます。

          「神の名遊び」

   女A  既に国生みをへて、さらに神を生みき故、生める神の名は?
   女B  オホコトヲシヲの神 次に
   女A  イハツチビコの神 次に
   女B  イハスヒメの神 次に
   女A  アメノフキヲの神 次に
   女B  オホヤビコの神 次に
   女A  カザモツワケノオシヲの神 次に
   女B  アワナギの神
   女A  アワナミの神
   女B  ツラナギの神
   女A  ツラナミの神
   女B  アメノミクマリの神
   女A  クニノミクマリの神
   女B  アメノクヒザモチの神
   女A  クニノクヒザモチの神
   女B  アメノサヅチの神
   女A  クニノサヅチの神
   女B  クニノサギリの神
   女A  アメノクラドの神
   女B  クニノクラドの神
   女A  オホトマトヒコの神
   女B  オホトマトイメの神
女A・女B  この子をうみしによりてみほとやかえてやみこやせり
       
          「神の名遊び」で時空が歪む。カバン屋へ移行。



                ※「神の名遊び」は千賀ゆう子さんの「古事記をめくる2」より
                  抜粋、引用させていただきました。



関係


          女A、カバンを開ける。中を覗きながら…

   女A  メタセコイア、って知ってる?
   女B  (小さい声で)チャック下ろすぞ、チャック下ろすぞ…
   女A  メタセコイア。生きた化石。新生代針葉樹。種子植物スギ科。葉は対生。中生代の第三
       紀にかけて世界中に繁茂した。─九四五年、中国四川省で発見された化石のメタセコイ
       アから奇跡的に採取された種子は、フラスコの中で芽をだし、数千万年の時を越えて、
       この現代に蘇ったのだった。

          と、なにやら様子が違う。

   女A  この巨大な落葉高木は、その化石から類推すると、時に三十メートルにも及んだであろうとい
       われたのだった…フラスコの中で発芽し、無菌室で育った苗はまもなく中国四川省に返
       された。順調に成長しその雄姿を再びこの現代にみせるかに思われたが、─九五〇年、
       忽然とその姿を消したのだった。
   女B  数千万年の時がその蘇生を受け付けなかったのか、その存在に興味を持つ何者かによっ
       て奪い去られたのか、いまだ謎のままである。
   女A  ─九六〇年、巷にまことしやかな噂が流れた。
   女B  (予期せぬ言葉に「えっ!」と振り向く)…
   女A  球果からはじけた、メタセコイアの胞子は偏西風に乗ってゴビ砂漠に、蒙古平原をかけ
       ぬけ、この地上を席捲したと、まことしやかに語られた。
   女B  …
   女A  (笑い)…
   女B  誰なんだいお前は…
   女A  まことしやかな噂は伝説を生んだ。メタセコイアの胞子は、中国から舞い上がる黄砂に
       乗って、この日本にも辿り着いたんだと。
   女B  なんの話しだい、それが伝説とはとんだ話しだね。
   女A  この続きを聞きたかったら、このカバンを買って下さい。
   女B  そのなかには何が入っているの?
   女A  えっ?
   女B  だから、そのカバンの中には何がはいっているんだよ。
   女A  運です。
   女B  えっ?
   女A  (笑い)たかがカバン屋に、そんな唐突な質問投げかけて、立場が逆転するとでもお思
       いでしょうか。
   女B  そうだとしたら…
   女A  たかがカバン屋は、ただ切り返すだけです。
   女B  相撲じゃないんだから、土俵に俵はないよ。そう簡単には切り返されはしないと思うん
       だがどうでしょうか。
   女A  話の続きは聞きたくないのでしょうか。
   女B  たかがカバン屋は俵のない土俵で、話しを売ってカバンを渡すのかい。
   女A  いっときますが、カバン屋はいつだって、カバンを売ったことはないのです。だから、
       カバン屋にカバンを買いにくるカバンを買う人はカバンを買ったことはないのです。
       それでも不思議なことにカバン屋はカバンを買って下さいというのです。
   女B  それじゃカバン屋はお前の喋ったセンテンスと同じで文法がないじゃないか。
   女A  文法で小説は書けません。ただ自由・文法なだけなのです。
   女B  それをいうなら自由奔放だよ。
   女A  ガキのよく読む小説に出てくるダジャレを真似てみました。
   女B  なに企んでる。
   女A  不安になりましたか。
   女B  思いすぎだ。
   女A  カバン屋はいつもそんな不安にさいなまれていました。
   女B  思いすぎだっていってるだろうが、ただ、お前のふらちなお喋りについて行く隠れ蓑な
       んだよ。初対面なんで気を使ってるんだ。解るだろ、商売やってんだったら。
   女A  はい、その気の使い方好きです、綺麗です。
   女B  えッ?
   女A  その気の使い方です。
   女B  いや、その後。
   女A  好きです。
   女B  その後だよ。
   女A  綺麗です。
   女B  てれるぜッ…
   女A  えッ。
   女B  はっきりいわなくていいだろ。
   女A  いえっていったから。
   女B  いいよ。立場逆転した。
   女A  単純ですね。
   女B  単純で悪いか。
   女A  綺麗です。
   女B  二度目は効果うすれんだ。唐突に出た一度目は、お愛想でも納得するが、ダメ押しされ
       ると理不尽な疑問形が断定形を押しのけて、女の五段活用をはじめてごらん。否定形は
       もしかしたら、すぐそこに…
   女A  複雑なおんな心の文法ですね。
   女B  …なんの用なんだい。
   女A  二つ目の唐突な質問。その手は桑名の焼き蛤。わたしはただのカバン屋です。
   女B  なに企んでる。
   女A  不安になりましたか。
   女B  思いすぎだ。
   女A  カバン屋はいつもそんな不安にさいなまれていました。
   女B  もういいッ。
   女A  いっときますが、カバン屋はいつだって、カバンを売ったことはないのです。
   女B  じゃ、何を売ってんだよ。
   女A  カバン屋の前の商売を知っていますか?
   女B  えっ?  
   女A  カバン屋の前の商売です。
   女B  カバン屋の店先で、あたしがいちいち聞いたことがあるとでも思っているのかい。
   女A  この国の多くのカバン屋の前の商売です。
   女B  おまえ、ただのカバン屋じゃないね。
   女A  唐突な質問の連発ですが、立場は逆転しっぱなしで、わたしの手の平、いえ、もうここ
       はカバン屋のカバンの中なのかも知れません。
   女B  カバン屋のまえの商売は?
   女A  そう直にでればすぐ教えてあげたのに。
   女B  ゴチャゴチャはもういいんだよ。
   女A  カバン屋の前の商売は、カンバン屋でした。
   女B  (爆笑)何かと思えば、またダジャレかい。
   女A  いいえ、マジです。マジほど怖いダジャレはないと思いませんか。
   女B  …
   女A  カンバン屋はある日、高い所で仕事をしておりました。ところが突風、その突風に煽ら
       れた拍子に梯子を踏み外し、地面に叩きつけられたのです。そのときンを落としてしま
       い、カバンになったのです。カンバン屋はそれ以来、一つの運を無くしていつも不安に
       さいなまれてきました。こうなればもうカバンは、も一つの運を落とすわけにはいきま
       せん。そうではありませんか。それでは世の中真っ暗闇じゃございませんか。考えても
       みてください、なにせ二つ運を落としてしまえばタダのカバなのですから。そこまでい
       くわけにはまいりません。…故なく消し飛んでしまった運。カンバン屋は考えたのです
       もしかするともう一つの運も、いつどんな拍子にと思ったのです。ついに考えつきまし
       た。カバンの中に運を詰めよう、と。そのときからカンバン屋ははれてカバン屋になっ
       たのです。
   女B  よかったね。
   女A  カバン屋のバイブル、カバン屋の日本書紀、あるいはカバン屋独立宣言とでもいってい
       いこの逸話に対して、あなたは他にいうべき言葉はないのですか。
   女B  おめでとう。
   女A  …これが、ことの顛末です。
   女B  よかった。ようッポストカンバン屋。ようッ新たなるカバン屋パラダイムっ、ペッペッ
       ペッペッ。
   女A  その唾、自分の頭の上に落ちないといいですね。
   女B  この脈絡の行間を読めッ!
   女A  やっぱりバカにしてるんだな。
   女B  カバじゃなかったのか。
   女A  そうです。運はここに入っています。
   女B  涙でる。もういい。本当によかった。お疲れ。…それ以外いうことない。期待に応えら
       れなくてメンゴ。
   女A  納得します。ついにあなたは、感涙にむせびました。それで十分です。
   女B  涙なんか出てない。
   女A  いいえ出ました。わたし行間を読みますから。
   女B  かってに解釈するな。
   女A  幾多のカンバン屋さんはきっと浮かばれます。
   女B  琵琶湖の水面にでも浮きやがれ。
   女A  えっ?
   女B  お付き合いするが、それじゃ日本中のカバン屋は運詰め込んで、商いに励んでいるとい
       うわけだ。まったく臭い商売じゃないか。
   女A  残念ながら、閉じ込めてしまった運を売るわけにはいきません。
   女B  それじゃ、カバン屋はカバンも売らず、運も売らず、何を商っているんだ。
   女A  カバン屋は気心を商っています。
   女B  ピュアーだね、いいかげんにしろッ。
   女A  そう、気心はいつだっていいかげんで、うつろいやすい。
   女B  カバンの中に運を詰め込んでカバンを売らないカバン屋さん、一つ、その気心とやらを
       このあたしにも分けて貰えませんか。
   女A  まいどいらっしゃい。どんなカバンにいたしましょうか。
   女B  気心の入ったやつ。
   女A  そうです。そうしてお客はカバン屋の店先をくぐり、カバンを買っていくのです。そう
       じゃなかったらカバン屋なんてとうい昔につぶれているんです。考えてみてください。
       あなたは生まれてこのかた、いくつのカバンを買いましたか。押し入れを開けて数えて
       みて下さい。そこにはきっと、用済みのカバンがゴロゴロと転がっているはずです。な
       ぜでしょうか。カバンが単なるカバンならたった一つでよかったはずなのです。
   女B  押し入れには、忘れようにも忘れられない記憶が詰まってんだよ。そんな押し入れの中
       にファッションに添い寝した使い古しのカバンが山ほどあるなら、それは一つ一つの思
       い出なのかもしれないね。そっと手を差しのべて、ふとわれに還るための…
   女A  それは気心の残骸です。あなた、カバン屋になれます。いえもうとっくにカバン屋なの
       かもしれません。
   女B  あたしには、商う気心なんてないよ。
   女A  でもなれます。
   女B  かってに解釈するな。
   女A  行間をよんでるわけじゃありません。
   女B  あたしのことはほっときなよ。
   女A  カバンを売らないこのカバン屋だって、商う気心なんてあるわけありません。カバンを
       売らないカバン屋は、お客の持ってくる気心を色分けし、カバンに入るようにして持っ
       て帰ってもらうだけなのです。
   女B  カバンを買うためにカバン屋にいって何が悪いッ。
   女A  悪くありません。だってそれが人生なのですから。でもほんとうに、あなたはカバンを
       買うためにカバン屋に行ったことがありますか。だれもないのです。だれもが、何を詰
       めようかという思いを込めてカバン屋に行くのです。そこでわたしはこのカバンに詰め
       た運を、少しばかり働かせて、色分けし、お客の持ってきた気心が運がつくようにする
       だけです。企業秘密をここまでばらしました。カバン一つ買ってください。カバンを売
       らないカバン屋は、あなたの気心詰めてさしあげますが。
   女B  詭弁だ、こじつけだよ。このペテン師。
   女A  じゃお伺いしますが、あなたはこのように舞台にたって、いったい何を商っているので
       すかッ。
   女B  …
   女A  人の気心じゃなかったのですか。するとあなたもペテン師ですか。
   女B  人の気心勝手にあつかうな。おまけに色までつけやがって、何様のつもりだい。
   女A  カバン屋のまえの商売をお忘れですか。カンバン屋です。カンバン屋に色はつきもので
       す。いまさら何をおっしゃるのですか。昔とった杵柄忘れるようじゃ、カバン屋のお里
       もしれたもの。
   女B  ああいやあ、こういいやがって。お前はやっぱりペテン師だ。だがな、お前のペテンは
       ソフトばっかりだ。とろけてまうぜ。中途半端じゃないか。悔しかったらチェーンでも
       巻いてヘビメタやってみろ。
   女A  ここでとぐろを巻くつもりはありません。
   女B  ハードだよ。ばかやろう。ハードで気心揺すってみろってんだ。
   女A  演歌じゃなかったのですか。
   女B  こじつけはもういい。もういいよ。
   女A  そう、もうわたしの用は終わりです。だって、ここまで鎖で引っ張り回したのですから
       きっと気心は動きはじめ、その風に乗ってメタセコイアの種子は、飛び立ったといって
       いいのですから。
   女B  なんだってッ!
   女A  だってここは、一丁目一番地なのです。
   女B  ここが一丁目一番地ッ!どういうことよ。
   女A  謎のカバン屋の新・日本書紀第一項ッ!
   女B  …風が吹いている…本当に。風が吹いている。そんな馬鹿な、風なんて吹くわけないじ
       ゃない。だってここは…
   女A  一丁目一番地ッ!
   女B  水の音…流れてるんだッ!(笑い)おーい?叩△澆鵑福???瓩い討い襯叩⊃紊硫擦??
       るッ!
   女A  それじゃまた。
   女B  行くのかい。
   女A  ええッ。
   女B  いつかまた会えるんだろうか。
   女A  いつかまた気心のしれたころに。
   女B  最後に一つ、もうなにも聞かないから、一つ教えておくれ。
   女A  カバンを売らないこの謎のカバン屋にですか。
   女B  そう。よかったら、カバンを売らないカバン屋は、いつカンバン屋からカバン屋になっ
       たのか。それがいつの話か聞かせてもらうと、嬉しいのですがッ!
   女A  とき、暗雲たなびく乱世、平安の世はちょうど八百年前、一一八九年、文治五年四月、
       陸奥の国平和泉、衣川にいだかれた高館の戦場であった。まもなくその持仏堂では一人
       の若武者が自刃の露としてはてるはずであった。その若武者とは、歳幼く七歳にして、
       鞍馬の山の奥深く、禅林坊阿闍梨覚日の弟子となった稚児の成長した姿であった。その
       名は源久郎義経ッ!
   女B  やっぱりそれは、子供騙しのこじつけだッ。
   女A  こじつけだとしたらッ?
   女B  おつきあいする身にもなってもらいたい。
   女A  そうすると、このわたしたちの歴史が、あなたの人生が、そしてこのわたしの生活が、
       こじつけの積み重ねではない、と、ついにいい切っていいのですね。
   女B  できるなら…
   女A  どう、できるならそのこじつけを、メタセコイアが数千万年の時を越えて蘇ったように
       とっぱらって見たいと、カバン屋は思うのですッ!

          照明激変。

異化



   女B  もうやめてッ!(と怒って魚を投げ付ける)

          魚がある。
          この魚が二人の想像力を武器に二人のかつての子供になる。
          観客にとっては魚は物理的に人である。

   女A  痛いじゃないの、かわいそうに。
   女B  何が。
   女A  魚が。
   女B  魚が?
          女A魚を取る。

   女A  かわいそうに。なによその目、そんなにいやなの。
   女B  べつに…
   女A  おかしいとおもってるんでしょ。
   女B  なにをいっているのよ。
   女A  おかしくっておかしくってしかたがないんでしょ。
   女B  あたしはただ…
   女A  おかしかったら笑いなさいよ。
   女B  おかしくなんかないわ。
   女A  笑いなさいって!
   女B  (えへへと笑う)…
   女A  もっと笑いなさいッ!
   女B  (笑う)…
   女A  だめよッ、もっと、もっと笑うのよッ!
   女B  (ばか笑い。ひきつり悲惨になってくる)…
   女A  もう笑えないっていうのッ!
   女B  あなたが笑ってみたらッ!どうなの笑ってみなさいよ。笑いなさいってッ!
   女A  (笑う)…
   女B  そんなんじゃわからないッ!
   女A  (笑う)…
   女B  泣いているのか、もっと笑えッ!
   女A  (笑う)…
   女B  笑えッ!
   女A  笑えッ!

          「笑えッ!」と笑いが混乱。ついに寂莫は飛躍しない。錯乱は静寂へ。
          二人は魚を目にする。身体の一部が痒くなってくる。除々に痒さは増す。
          互いに相手が早く寝ないことを責める。

   女A  魚、私、駄目なのジンマシン…
   女B  魚、私、駄目なのジンマシン…

          痒さが激しくなってくる。

   女A  あんたが早く寝ないから。
   女B  あんたが早く寝ないから。
   女A  …
   女B  …
   女B  あんたが早く寝ないから。
   女A  あんたが早く寝ないから。
   女A  お前が殺ったんだろ!
   女B  それは何も知らない、がんぜない、僕は五尺之童でした。僕は夜空を飛んでおりました
       この黒髪は来る風に、千切れんばかりのフラフリフラのフラッター、学生服はそんな風
       を背にはらみ、上へ上へと押し上げます。順風満帆の空中飛行…何処で殺したんだッ。
   女A  それはまるで夢を見ているようでもありました。それは荒野をかけめぐる夢がかけこん
       で行った月の砂漠だったのかも知れません。砂に隠れた幻の地平線を求めてすべてのも
       のはめくるめくひるがえり…ホラ、幻の地平線から銀板の月が登ります…その日は雨だ
       ったか?
   女B  そのゆらめきはあるはずがない。けれどそれは見えているのです。頭上にまとわりつい
       て、そして離れようとしない、この大地に染みてそこにあるのだと思います。光となっ
       て滲み出ている。それはきっと少年達の想いが行き場を失い、袋小路の迷路に苛立ち、
       苛立つほどに発光している、そんな栄光の光の具合なのです…泣いていたのか?
   女A  風が吹き始めました。この風はきっと俺が学校に行ってたとき、昼休みの体育館の裏を
       吹いていたやつだ。みなさんのホホやうなじをそよいでゆきます。一時間目の授業に遅
 ?     々錣靴董△箸蟷弔気譴織廛薀奪肇曄璽爐鯆未蟆瓩?辛??琉蕕亮?箸魑戮鵑澄?覯爾??
       の一人きりの教室に吹いていたのがこの風だ。ほら、風が吹き始めました…どんな気が
       したんだッ!
   女B  風はいま、風鈴に化身しています。風はこの空気を振るわせ、音波となってチリン、リ
       ンリンとその身を振るわせ、僕をとりまきます…ずっと考えていたのか?
   女A  御破算で願いましては…美しい言葉…一言つぶやき、そのように、おもいやる程に、願
       う程に、叶うなら…はかなく美しい言葉だと思います。だからこそきっと、この世にあ
       またあり、月あかりに照らされた、成就せざるほのかな思いが、そうつぶやくのでしょ
       う…正直に言ってみろッ!
   女B  ねえ君、君はこうして、未練が梯子に乗っていた。ぬけがらが土蔵の中で、解き放たれ
       たみまごうばかりの時間の中に、いつはてるともない迷宮の物語へと旅立てば、君はい
       つも格子の外で僕といた。いや、そのとき、君は僕だったのだ…歳はッ!
   女A  子を生んだことのない身は子持ちより幸せと申せましょう、なぜなら子を持たぬ身は子
       というものが良いものか困ったものか、それがわからず色々な苦労から免れているので
       す…だが、もう遅い、何がなされようとも、すべては遅すぎるッ…誕生日の前の日だろ
       ッ?
   女B  ある日のことでございますッ!お釈迦様は…極楽の蓮池のふちにたって…この、一部始
       終をじっと見ていらっしゃいました…やがてお釈迦様は、光一を地獄から助けようとお
       考えになったのでございます。そして、光一が慈悲をかけ、その命を慈しんだクモのそ
       の糸を、お釈迦様は蓮池の底深くたらし、光一の前に差しだしたのでございます。光一
       はそのクモの糸を登り始めました。まもなく蓮池の縁に手が届かんとするそのとき、ふ
       と下を見ますと、多くの餓鬼どもがクモの糸を登ってきているではありませんか。その
       ためクモの糸は、光一の手元で、今にも切れそうになっています。光一はあわてて、自
       分の足元のクモの糸に手を伸ばしッ!…何故一緒に死ななかった?
   女A  黙りゃれッ!わらわはヒミコ…ヒミコであったそのゆえに、わらわの命は助けられ、わ
       らわに生きて苦しみを、国を失った悔しさを味わえ、という…あの人はそういった。あ
       の人がヤマトだったのか…ヤマトがあの人だったのか…いずれにしろ、このうらみ、ヤ
       マトに返さねばならぬなあ…千年を生き延びて、生き延びたがゆえにナメてきた。その
       ノシに、国を滅ぼされ、財を奪われたうらみをつけて返してくれよう。それこそヒミコ
       とヤマトの無理心中、わらわの道行じゃ!…毎晩毎晩、夢にうなされているんじゃない
       のかい?

          二人、大きく踏み出す。

   女B  親を殺した小雀が恋し恋しと鳴きまする。恋し恋し飛びまする。なにが恋しと聞いたら
       ば、チュンチュンチュンチュン鳴くばかり。鳴いたお口のなかからは舌だす舌さえ見え
       ません。あたしゃ舌きり雀です。あたしの恋しさ知りたけりゃ、あたしの舌に聞いとく
       れ。あたしもそれを知りたくて、今日もお空を飛びまする。明日もお空を飛びまする
       …悔やんではいないのか?
   女A  …だが人は人に出会い、親は子に出会い、子は親に出会う。女は男に出会い、男は女
       に出会う。この出会いの中で様々な想いは漠として生まれ、やがて血を滴らせついえさ
       る…げに恐ろしきは、げに恐ろしきは…お前を見て、笑ったんだよな?
   女B  苦しいよう=、苦しいよう=…暑いよう、苦しいよう、焼け死んじゃうよう。水、水を
       くれ…母ちゃん逃げよう、母ちゃん逃げよう…母ちゃん、母ちゃーん…その子は何をし
       てたんだッ?
   女A  母さん好きなんでしょ。父さん嫌いでも、母さんは好きでしょ。じゃ抱いてあげるいら
       っしゃい(と、喪服の片肌ぬいで卓袱台の上へ、大股開きですわる)さあいらっしゃい
     こわいことなんてないのよ。お乳すわしてあげる。やさしく抱いてあげるからいらっし
       ゃい…その後、お前は何をしたんだ?
   女B  …記憶が蘇る。…あなたの中で僕の記憶を蘇らせてくれませんか。夢をみたいというの
       ではありません。こんな僕がただいやだと言うのでもありません。あなたの中で僕の記
       憶が蘇るなら、僕はそれをかっさらい、きっと在るだろう僕のもう一つの可能性を生き
       てみたいと思うのです…お前の見上げた空は何色だった?
   女A  (星空を見上げて)人が死ぬ時は何時だって、視線は地面すれすれにあるとは思わない
       かい。きっとそれはこの人の一生で一番低い視線なんだ。その視線はその人の最後の風
       景としてその脳裏に深く刻まれるだろう。すべての人の最後の風景がきれいだったらい
       いのにねえ。それで十分だと思わないかい、それでいいんだよね。…君が水中から見上
       げた視線は水面を突き抜けて星空にとどいていたはずだ。星からの光線は水中ではきっ
       と…
女A・女B  …こんなふうにきらめいていたはずだッ!
女A・女B  (むきあって)オイもういいんだよ。もうすこし寝ていろよ。こっからがいいとこだ。
       ここまではいつだってこれたんだからな。
   女B  それは私のいうこと。
   女A  それは私のいうこと。
   女B  ここから先は私一人でいく。
   女A  ここから先は私一人でいく。
   女B  一人にしてよ。
   女A  一人にしてよ。
   女B  もういいから寝なさい。
   女A  もういいから寝なさい。
女A・女B  …
   女A  あなたこそ寝なさいってッ。
   女B  あなたこそ寝なさいってッ。
   女A  あなたが寝な?い箸△燭靴鰐欧譴覆い里茵?
   女B  あなたが寝ないとあたしは眠れないのよ。
   女A  一人にしてよッ。
   女B  一人にしてよッ。
女A・女B  …
   女B  寝なさいってッ!
   女A  寝なさいってッ!
   女B  寝なさいってッ!   
女A・女B  …
   女A  お願いだからもうほっといてッ。
   女B  お願いだからもうほっといてッ。
   女A  お願いだからもうほっといてッ。
   女B  お願いだから一人にしてッ!
   女A  お願いだから一人にしてッ!
   女B  お願いだから一人にしてッ!
   女A  お願いッ!

          二人、大きく踏み出す。

   女B  お願いッ!
   女A  お願いッ!
女A・女B  お願いだから寝てちょうだい。

          女Aは出刃包丁を持つ。女Bは魚を持つ。

女A・女B  そんなに泣くと、お父さんが起きるでしょ。
   女B  そんなに泣くと、お婆さんが起きるでしょ。
   女A  そんなに泣くと、近所の人が起きるでしょ。
女A・女B  お願いだから寝てッ!

          女Bはさかなを子供の首を絞める。
          女Aは女Bから魚を狂ったようにとる。女Bの対象は招き猫に変わる。女Bは傘
          をさし雨降る外へでたようだ。
女A・女B  泣かないで。
   女B  寝て。
   女A  泣かないで。
   女B  寝て。
   女A  泣かないで。
   女B  寝て。
   女A  泣かないで。
   女B  寝て。
   女A  泣かないで。
女A・女B  お願いッ!

          女Aは出刃包丁で魚を刺した。女Bは招き猫を絞め殺した。音楽CO.
          女A・女Bの号泣が続く。そして続く。

   女A  そんなふうに子供の首を絞めたんじゃないんだろッ。
   女B  いいえ、私はこうして子供を刺し殺したんです…そんなふうに子供を刺し殺したんじ
       ゃないんだろうッ?
   女A  いいえ、わたしはこうして子供の首を絞めたんです…そんなふうに子供の首を絞めたん
       じゃないんだろうッ?
   女B  いいえ、私はこうして子供を刺し殺したんです…そんなふうに子供を刺し殺したんじ
       じゃないんだろうッ? 
   女A  いいえ、わたしはこうして子供の首を絞めたんです…そんなふうに子供を殺したんじゃ
       ないんだろうッ?
女A・女B  はい、私がこの手で、この母の手で、我が子の首を絞めたんですッ!
   女A  そして、あたしも死のうとおもったんです。
   女B  でも、怖くなったのです。いいやそんなことはない…でもこうして生きている。
   女A  わからない…
   女B  その目はあたしを信じていました。すべてを許すように…でも、死を受け入れる目の輝
       きなどがあるでしょうか。
   女A  微笑んでさえいました。
   女B  そうよ、手をこのわたしに差しのべさえしたのよ。
   女A  なぜなのッ!
   女B  微笑んでいたからッ?
   女A  邪魔だったんでしょッ?
   女B  包丁があったからッ?
   女A  お酒のんでたからッ?
   女B  テレビがうるさかったからッ?
   女A  男が憎かったからッ?
   女B  お客が来たからッ?
   女A  お隣が気にくわなかったからッ?
   女B  暑苦しかったからッ!
   女A  電車が通り過ぎたからッ?
   女B  人が歩いていたからッ!
   女A  話し声が聞こえたからッ!
   女B  外がうるさかったんでしょッ!
   女A  ビルが高すぎたからッ!
   女B  人が多すぎたからッ!
   女A  街があったからッ!
   女B  政治が気にくわなかったからッ!
女A・女B  天皇ヒロヒトが死んでしまったからッ!
女A・女B  ちがう…
   女B  すべては違うわッ!
   女A  そしてすべてはそうよッ!
女A・女B  だからわたしを殺してッ!

急激な展開



          空間が歪む。
          二人はこの劇的なるものを実証する。
          中島みゆきの『世情』流れる。
          女Aと女Bは互いに首を絞めはじめる。数分の女Aと女Bの、したがって女の自
          死へ至ろうとする場。
          音楽CO。同時に女B倒れる。女A立ったまま絶命か?
          女A泣き崩れる。
          女B静かに起き上がり、女Aに傘をさしかける。

   女B  傘ささないと身体に毒よ。

          女A傘をさす。
   女A  綺麗なお星さまね。
   女B  月なんてでてないわ。
   女A  あじさい、きっと綺麗だわ。
   女B  えッ?
   女A  ??紊?蠅猟?里△犬気ぁ?
   女B  そうね。
女A・女B  (間)…
   女A  あしたが…
   女B  あしたが…
女A・女B  あしたがあれば!…

フィナーレ



          静に音楽入る。
          小柳ルミコ『おひさしぶりね』
          最後の身体の展開。足を踏む。踏むことでの身体の開放。
          フィナーレ
          幕 

 


             


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