[ プロローグ ]↓

      待合室。
      待合室にも種々雑多であるが、ここは何の待合室か。今のところそれはまだ分からない。
      数戸の長椅子が二列である。
      この長椅子を乱雑、縦横に使っての、イメージシーン。
      十個の携帯電話。鳴る。鳴る。鳴る。
      博多チャンボンの女いる。
      汽笛ふえふく。

博多チャンポンの女  風、流れ
   鳥、うたう。
   梢の木漏れ日、せせらぎの音。
   潮騒。
   波頭のきらめき、夕日のなかで、金色に踊る。
   なにもかもが紅に染まったあの日
   あれはもう、帰らぬ昨日なのか。
   古の思い出……
   過ぎていった夢なのか。
   過ぎていった……
   汽笛ふえふく。
   ヘッドライト、
   蜃気楼。
   小雨に煙る、
   幹線道路。
   蹴たてる水飛沫。
   行く手を洗い流せ、
   すべてを砕いて踏み潰せ。
   あれはもう、帰らぬ昨日なのか。
   古の思い出……。
   過ぎていった夢なのか。
   過ぎていった::

      それでも待合室。
      待合室にも種々雑多であるが、ここは何の待合室か。今のところそれはまだ分からない。
      『夢見通り商店街』の看板あり。
      刑事登場していた。
      犯人登場していた
      人々シルエットになる。
      大きく音楽。
      音楽CUT。人々一斉に喋り始める。
      大きく音楽。
      人々ストップモーション。
      照明色々変わる。
      音楽CUT。人々一斉に喋り始める。
      大きく音楽。
      人々ストップモーション。
      照明色々変わる。
      そしてシルエット。

[     

      ストップモーション解ける。
      そしてシルエット解ける。

銀行員 お客様たいへんお待たせしました。記載できました。これお返しします。
客  (受け取る)……
銀行員 またよろしくお願いしますね。
客  ……
銀行員 あの、お利息、よろしいですね。
客  え?
銀行員 利息ですよ。
客  え?
銀行員 いいですね。うらやましい。
客  何が。
銀行員 外国旅行なんかだと、ハワイ、おつりきますね。

客  そう。
銀行員 二十一世紀まで頑張っていただきますと、月旅行も夢じやありません。
客  あそう。
銀行員 無感動を装っています。笑みがこぼれる一歩手前、がまんするの一生懸命。
 (排気)……
銀行員 あっ、ごまかした。力抜いたでしょ。無理しない。いいな、いいな、わたしもそんなことやってみたいな、やりたいな。ガハハって笑ってもスカスカでジーンときませんものね。グーとこらえて、奥歯あたりでニンマリ、でしょ。
客  (ニンマリ)……
銀行員 ニンマリ。
客  ニ……
銀行員 ニンマリです。
客  ニニ……
銀行員 奥歯で二二のニンマリです。
客  二二二。
銀行員 前歯でニニニのニンマリ。がんばって。
客  ニニニニ、ガハハ(と高笑い)
銀行員 あっ、喉チンコみーえた。
客  (ムス)
銀行員 ですよね。食道の内壁、裏返して見せたいですよね。あたしだったら、こうやって、胃力メラ呑むの得意、全然得意なの、ペロリのスンナリのアッサリ、ガバガバ、でこうやって爪たてて、あらやーだ、直腸さんお早うさん。お尻から手がでちやった。だからね、向日葵さんこんにちわ。もうお昼なの、そう胡瓜食べよかな。では河童預金またよろしくね。ああ、暑いから合羽脱ご。
客  待てーッり‥

      下袖から拡声器、アナウンス入る。

拡声器の声  待合室のみなさん、お呼び出しします。競馬は当たるときと当たらん時があるんですわ、当たったときはわたしのデータ正しかった。外れたときは、まあ、馬があかんかたということですわな。よろしいか、データいうんは、単なる実績と思うたらあきまへん。外れたときは黙っとかなあかん、馬が悪いんやからデータは関係ない。

      博多チャンボンの女、上袖から登場していた。中央でチャンポン鳴らす。上袖に退場

拡声器の声  …………エーエー、マイクテスト、マイクテスト、待合室のみなさん、つまり、当たったときのデータ、これがほんまもんや。結論、データは後からやってくる。非情なもんや、あてにならんもんや、むごいもんや。人生です。これが競馬における実績とデータとの単位であります。これを忘れなければ、予想はコード化されメッセージとなります。ということでカツ丼お待たせしました。……カツ丼ですよ。

     と登場。岡持を持っているがレインコートに帽子の刑事。
     このとき銀行員と客のストップモーションゆっくりと解けている。

刑事 葱は難波葱です。どなたですか、カツ丼ですよ。お待たせしました。さあカツカツとたいらげて、大穴ガツンといてこましてんか。大きな声でいえませんが、かぽちやの煮込みが少々残ったときは、つぶして冷凍室へ入れておきましょう。カレーを作ったときに、解凍して加えます。まろやかさとコクがプラスされ美味しいカレーができあがります。これはあたしとあなたの、まろやかな蜂蜜、いえいえ竹光、いいえ秘密。冷えますよ。さめますよ。

     このとき、銀行員動く。

客  待てーッり‥
銀行員 河童預金またよろしくね。
客  待てーッぴ‥

銀行員 二二二二、ガハハ(と高笑い)
刑事 はい、待ちます。高倉健です。藤純子さん。
客  ……
刑事 ばかな、ぽくだよ島田陽子。オレ、真田広之1・
銀行員 国民年金支払い窓口は三十八よ。
刑事 それは違います。たしかに樋口可奈子はヌーベルバーグでありました。しかしヌーベルバーグはヌーベルバーグでしかないのであります。もちろん苦渋の選択でありましょう。あまたある障害をくぐり抜けねばなりません。容易いことだとは申しませんが、最後には、飛べばいい。丸裸になって世界に飛ぶのです。時代が押す。しかし陽子、君はそうはいかない。エピゴーネン、焼直し、二番煎じという言葉が待っている。が、二番出汁は煮込むのです。わたしは二番出汁がいい。わたしは二番出汁を味噌汁に使います。汁のコクが違います。コクです。おわかりですか。樋ロ可奈子は駆け抜けていっただけなのです。あなたは、そのかすかな轍を踏みしめて、明確な進路を示さねばなりませんでtた。したがって、あなたこそ、アンダーヘアーに光明をあて、世の紳士諸氏を、真に救済したのでありました。断じて樋口可奈子ではありません。陽子、あなたが宮沢りえを用意したのであります。わたしはもうアンダーヘアーなどという俗称を捨ててここに、おそそ毛の女王の栄えある称号を贈ります。ああ、おそそ毛の女王島田陽子ぴ‥しかし、百歩譲ったとしても、いや、二百歩譲ったとしても、駄目だ西川峰子。辺見マリ、山本リンダ、ああ思い出したくない。そんな真田広之です。
客・銀行員 ハイ…………
刑事 というわけで、三十八番の方、三十八番の方いらっしやいますか。お薬できました。診察券持って、こちらに来て下さい。

      男、紙コップを持って登場。
      二つ持っている一つを飲む。糸電話よろしく耳につける。

男  モシモシ、モシモシ……。
刑事 三十八番の方、三十八番の方いらっしやいますか。
男  モシモシ……
刑事 (受話器を取って)それでは、ありそでないもの。
男  羽のついたお金。
刑事 どこ行ってたんですか。ずいぶん福岡市、いや大分市、いや探しました。
 男 なにいってんです。便所ですよ。
刑事 とにかく、診察券。
客  ハイ。
刑事 なんだ、シワクチャじゃない。こまるなあ、だいじなものなんだから。それじゃ読みますよ。
男  どうぞ。あ、ちょっとまってね。
刑事 なんです。
男  あの、すいません。
客  はい。
男  コーヒー。えーとアメリカンでね。あなたは?
刑事 紅茶。
客  かしこまりました。
男  どうぞ。
刑事 え。
男  だから読んで下さい。どうぞ。
刑事 では、335のKFの2788ー4795.間違いないですね。
男  ええ。
刑事 河合さんか。
河合 どうも。
刑事 Fの2ってことは職業、精神科のお医者さん。
河合 どうも、どうも。
刑事 78ということは滋賀、滋賀はどこ?
河合 大津。
刑事 奇遇だ。こりやーまいった。
河合 どこです生まれ。
刑事 秋田。
河合 ずいぶんな奇遇だ。
刑事 ということで、バツー、三人の子供は、大阪の施設ね。
河合 別れて三年になります。涙も枯れました。あれは、忘れもしない秋……
刑事 やはりクシヤクシヤだから見えないな。これは、
河合 秋でした。夕焼けでした。赤とんぼが飛んでおりました。一番下の息子がいったのです。「お父ちゃん、プランコ」。これが最後のプランコと思って押しました。いつまでも、いつまでも押してやりました。ブランコに乗って、このまま四人で、この空に飛び立てたら……上の息子が夕日に向かって叫びます。「お父ちゃんのばかやろうッ」。真ん中の息子が、涙をがまんして「ば、ばかやろう」とお兄ちゃんに負けずに叫びます。出来るなら、四人で、夕日に向かって、この空を飛べたなら。そんな秋の、三年前の夕暮でした。
刑事 その個別性、意味あるの。
河合 え。
刑事 読めないの。
河合 あ、すいません。わたし読みます。
刑事 なにいってんだい。ここは一番大切なスペース、あんたに読めたってだめ。.怒る。(急に怒る)もう怒ってる!・このフリースペースをなんだと思ってる。これじゃ、わたしがこのカードは偽物だといっても、あんたは何もいえないんだ。
河合 え、そんな。
刑事 なにもいえない。
河合 しかし。
刑事 いわない。
銀行員 静かにして下さい。ここは銀行ですよ。
河合 ……
刑事 こここそが、このフリースペースこそが、あんたのアイデンティティー。よろしいか、こんなこの数字なんか、これだけではなんの意味もないのです。まさに数字、単なる記号、どこにだって転がってます、ゴロゴロ。だから、このスペースのこのコメント。これがなけりや、滋賀生れのバツー、こぶ三つ、そんなのはごろごろしてんの、こっちから持ってきてあっちにまわしゃそれでしまい。あたしもあなたも、そんなもんでしょうが。だからこの一文が重要なんであります。この一文がこの数字を支えて、このカードは意味をもつのです。その時このすべてがあなたになるのです。もうおわかりでしょう。ここが読めないカードなど、それはカードじゃない。
河合 はあ。
刑事 ハアってあなた、そんなことで不安じゃないの。
河合 どちらかっていえば、選べぱですよ、そうだけど。でもまあ、四六時中そういうわけじゃないからね。
刑事 なんだって。そんなふうにことさら国民感情を逆撫でしてなにが楽しい。
河合 おおげさだよ。
刑事 非常識ッ。この燦然と輝くスリースリーのジヤッキーチェンー・
河合 ホイ!?
刑事 ――非常識ッ。この燦然と輝くスリースリーのプルースリ――・
河合 ホレー!
刑事 ――非常識ッ。この燦然と輝くスリースリーのダプルスリ――・にかけて、あなたはそんなことがいえるのか。おおげさだよだってg‥世界広しといえども、このナンバー335のKFの33、栄光のダプルスリーは、このわが日本国にしか与えられていないんだ。それでもそんなことがいえるのか。
河合 ボケかまして、ごまかしてんな。それでもってそんなに、ガミガミいうってのは、あなたもなんとなく、なんだかわからないんだけどもモヤーっとしてるからじゃないのでしょうか。
刑事 なんだと。
河合 ほら怒りましたね。
刑事 怒ってない。
河合 ここ、読みたかったんでしょ。
刑事 ばかばかしい。
河合 あそう。じゃいいんだ。
刑事 日本国憲法第二章、第九条第三項。何人たりといえども、第三者の提示閲覧の求めるを、これを拒絶することはできない。
河合 そうですよ。だから、見せたでしょ。
刑事 そこが読めなかったら、プライバシーになるでしょうが。
河合 やはりわたしのアイデンティティー知りたいんだ。
刑事 そういうことじゃない。プライバシーだよ。われわれは、人類史上最悪の概念であったプライバシーを守るという倫理感を世界に先駆けて放棄したんですよ。それが栄えあるダプルスリーの証ですよ。
河合 まあまあ。
刑事 まあまあがどうした。いいか、人間、この世に生まれてくるとき、訳もなく泣くのはなぜ'か、それは怒れぬからだ。憤怒をぶちまけれぬからだ。この阿呆どもの舞台に引き出されて悲しいからだ。
河合 シェイクスピアですね。それじゃ読みます。
刑事 ……
河合 読みますよ。刑事さん。
刑事 えっ。なぜ判ったんだ。どうしてだ。そりゃ、人のアイデンティティー知りたいったら、刑事以外にありません。刑事はこの欄の記入は禁止されていますもんね。いや、持っちゃいけなかったんだ。となりますと、人のを見たいのは人情。数こなして、世間感じたいですものね。
刑事 察してくれますか。
河合 因果な商売です。
刑事 わかってくれますか。
河合 ええ、それじゃ読みます。
刑事 ……
河合 読みますよ。刑事さん。
刑事 黙っているんです。察してください。はい。「あなたは、はじめて女の子の部屋に入ったあの栄光、あの甘いときめきを憶えていますか」
刑事 ハイー……いいなあ。久方ぶりの大変いいアイデンティティーだ。もう一度。
河合 え?
刑事 察してください。
河合 はあ。
刑事 もう一度、読んでほしい。栄光と甘いのとの間を大切にしてです。
河合 「あなたは、はじめて女の子の部屋に入ったあの栄光、あの甘いときめきを憶えていますか」
刑事 いい。感銘です。その間です。それでこそときめきです。蘇ってきます。
河合 あなたもありましたか。
刑事 十七でした。
河合 ころあいです。
刑事 部活の帰りでした。送っていったのでした。自転車の二人乗りでした。強引でした。便所になんか行きたくなかったのですが、むりして行ったのです。お茶でもといわれた、彼女の二階の部屋から、あじさいが光って見えましたっけ。
河合 わたしは。
刑事 はずみで入ったあの日。それだけでした。
河合 「来年の大学受験終わるまで、もうあわんとこ」

      客、水を持って登場。

客  お水置きます。

      と、退場。

刑事 一分と十二秒かけて「うん」といっただけでした。
河合 ハイハイ、そうですか、わたしの場合は
刑事 あれはッ! 二十四でした。
河合 えっ、それって二回目以降になりません。
刑事 事が成就した初めてのことです。
河合 ホホウー
刑事 カクテルパーティーの後の二十四時、マンションまでタクシーで送っていきました。
河合 二十四のガキがカクテルパーティーだとッ! タクシーだとッ!
刑事 え。
河合 いやいや、来ましたね。便所ですね。
刑事 一万円札しかないと。タクシー代の小銭がないと。
河合 うそだ。タクシーの運ちゃん、つり銭ぐらいは。彼女持ってたでしょう。
刑事 田舎じゃないんだ。客の目見てつり銭のーつぐらい機転をきかす。そうじゃなくちゃ、そのくらいのセンスがなくちゃこの都会、タクシーの運ちゃんは勤まらない。
河合 運ちゃんはクリアー。さて問題はー
刑事 そう彼女でした。
河合 わかる、わかる、で。
刑事 わたしがタクシー代もつと知っていても、お金、財布に小銭を用意してるそんな可憐な女の子でした。
河合 気が科くってのも困りもんだ。
刑事 (笑う)……
河合 不適な笑いか?泣き笑いか?ハッキリ笑えッ。
刑事 青春のほろ苦き笑いです。
河合 でッ。
刑事 「君、小銭もってる?」
河合 わたしそのとき、モジモジしました。どうしよう。持っているんです。ここで小銭出したら、部屋に行って取ってくるなんていえなくなるわ。どうしよう。あっ、わたし今、いけないこと考えてる。バカバカふしだら。いけないわ、いけないわ、いけない子。「あ、あのう」
刑事 なんだい。
河合 「あのーう」
刑事 うん、なんだい。
河合 「そのーう」
刑事 はい。
河合 ああ、神様。スミレはどうしたらいいんでしょう。いいんでしょう。こんなこと考えるスミレはいけない子でしょうか。スミレ悩んでます。「スミレ、持ってます」
刑事 「いいえスミレ持ってないの。お部屋に行って取ってきます」
河合 「あっ」
刑事 「えっ」
河合 「あの、ぽくもいくよ」
刑事 「いけないわ。男の人が、こんな夜更けに、一人暮らしの女の子の部屋に入っちやいけないわ、いけないわ」
河合 「ドアの前で待ってるよ」
刑事 「ほんとにほんとのほんと」
河合 「ほんとうだよ」
刑事 「やっぱりダメ」
河合 「どうして」
刑事 「男の人はみんな狼だから」
河合 「モジモジ、モジモジ」
刑事 「どうしたの、手紙かいてんの」
河合 「あの」
刑事 「はい」
河合 ……
刑事 「はい、はい、はい」
河合 「あの、コーヒー」
刑事 「ええ」
河合 「コーヒーの原産地はアフリカですね。アカネ科です」
刑事 「はい、で」
河合 「コーヒー遅いですね」
刑事 「ええ」

      客、コーヒーと紅茶を持って登場。

河合・刑事 「あの」
刑事 「どうぞおさきに」
河合 「あなたから」
刑事 「いいえ、大阪で生まれた女やさかいあなたから」
河合 「だめです。青春が終わったと思うからあなたから」
客  置きますよ。

      と、長椅子をテープルにしてコーヒーと紅茶を置く。
      河合と刑事はそれを無視。

河合・刑事 「踊り疲れたディスコの帰り、振り返ればそこは灰色の街、青春の街」
客  ばかみたい。
刑事 「ホラ、運転手さん怒ってるわ」

      銀行員、客を引っ張って座らせる。

河合 「いいんです、待たせておけば」
刑事 「でも」
河合 「あの」
刑事 「はい」
河合 「便所いきたいんですけど、トイレ使わせて下さい」
刑事 「ええ、喜んで」
河合 「はい」
刑事 「お帰りに、コーヒー呑んでいって下さいますか」
河合 「……」
刑事 トイレ使わせて下さい、か。……そんなこともありました。
河合 で。
刑事 でって、なるようになって。
河合 ダメだったと。
刑事 なんでだよ。
河合 あっそうなんだ。よかったじゃない。じゃ、詳しく話して。ロマンスでしょ。
刑事 どうして。
河合 え。
刑事 なぜしゃべんの。どうして教えなきやいけないの。それしゃべったら、この俺どうなんのか判ってんの。
河合  どうなんの。
刑事 おれは刑事だ。公僕だ。記憶なんてものは、とっくの昔に、ごみ箱の中に捨ててきた。思い出だと、ロマンスだと、追憶だと、いいかげんにしろ。
河合 その方が、どうして待合室に。
刑事 聞くな。聞くのはわたしの仕事だ。
河合 といわれても、待合室研究家の河合といたしましては
刑事 なに!?
河合 精神科医で待合室研究家。
刑事 ぐちやぐちやだが、なんだそれは、趣味か。
河合 趣味でないのは確かです。
刑事 すると、わたしはいま、この待合室で、君の対象になっているということだ。
河合 それは正確な状況判断です。
刑事 ばかな、調べるのが仕事のわたしが、いってしまえば調べられている。ますますしゃべれん。
河合 特異な事情なんですから。まあそういわず。
刑事 しゃべれば、この俺の心の片隅にそっとしまってたロマンスを、見ず知らずの河合某に曝け出してみろ、この心の片隅だけじゃなくなるでしょうが。責任とってくれるの。どうしてくれるの。
河合 無責任にいいますが責任とりますよ。
刑事 だめだ。俺は刑事だ。考えてみろ、この俺の心の片隅を君に握られたままになるんだ。すると俺はそれにこだわってしまう。こだわるなんてのは、ドア開けて一歩踏み込めば、そこはアイデンティティーの大広間だぞ。俺は刑事だ。フリースペースはいらない。
河合 ビタミンCですな。今日はここまでにしときますか。
刑事 ちょっといいですか。
河合 はいどうぞ。
刑事 あの、こんなにしゃべっても(心臓に手をあて)やはり胸苦しいんですが。
河合 心臓悪いんでしょう。
刑事 そんなばかな。
河合 ぱか。
刑事 いえ……
河合 強度の物語拒絶症ですからしかたありません。
刑事 そんな病名あるんですか。
河合 この世の中なんだってありますよ。その上に、不思議なことが百八つもありますからね。あまり考え込まないで下さい。
刑事 ですね。
河合 です。
刑事 ですよね。それじゃ三十八番でしたね。薬でした。
河合 はい。
刑事 確かに三十八番です。診察券お返ししますよ。

     と、岡持へ。カツ丼は入ってない。薬を出す。

刑事 (銀行員へ)君、この方のいただいて、処置室へ。

     銀行員、河合の赤いラインの入った紙コップを受け取る。

河合 すいません。少ししか出ませんでした。
銀行員 かまいません。このくらいあれば十分ですから。
河合 心臓悪いんです。検査結果は?
銀行員 三日後のこの時間に、お忘れなく。

      といったかと恩ったら、コップの水を一ロロヘ。グチュグチュと口を濯いだと恩ったら、ゴクリと喉をならして呑んだ。
      銀行員のゴクリで音楽IN。

客  キヤーッー

      人工心臓登場。彼の体にはチューブが雑多、血管のようにある。裸体露出部からチュープ出ている。左の胸の辺りに、点滅するものあり。頭部には人工心臓の最重要部位を被っている。総じてメタリック。チュープのなかの液体流れる。機械的な信号音点滅とともにある。体に煙ある。非常に苦しそうである。

刑事 君、それは検査物だぞ。
客  お小水呑んじやった。

      舞台にあった、水パイプの衝立ての水の色変わる。

人工心臓 (口からパイプがでているやら、鼻にパイプがはいっているやらではっきり聞こえないがそれはこうである)音楽が恋のかてであるなら、それを続けてくれ。このようにわたしが息をしているのか、息がわたしをしているのか分からないが、心臓がわたしのものであるのかわたしが心臓であるのか、それは定かではないが、そのようなわたしであっても、恋のかての音楽は、わたしの息吹を和ませる。このわたしのこの思いが、長い旅路の果てにはぐれてしまった、あのわたしの思いに突き刺さるまで。長き時の中で奏でてくれ。

      機械的な信号音大きくなる。やがて小さくなる。
      音楽続く。
      客、人工心臓の鼻に突き剌さったパイプを鋏できる。

人工心臓 (悲鳴。倒れる)……

      この時、椅子の上に博多チャンボンの女いる。
      銀行員、コップを頭の上に持っていく。流れる水。空のコップゆっくりと耳につけ
      る。河合、これに合わせてコップを耳につける。
銀行員 モシモシ、モシモシ……
河合 ……
銀行員 モシモシ、モシモシ、モシモシ……聞こえますか。どなたでもかまいせん。モシモシ。聞こえますか。
河合 モシモシ、モシモシ……

      博多チャンボンの女このモシモシにあわせて、双眼鏡で、ゆっくり空を仰ぐ。

銀行員 モシモシ……聞こえますか。
河合 その昔、まだ海図がなかった頃、一千にあまる船がこの海にこぎだした。新たなる希望の地を求めて。モシモシ、これが命の電話なら、そんな人間たちの命の息吹が聞こえるでしょうか。モシモシ、これは命の電話ですか、モシモシ、これは命の電話ですか、モシモシ
   モシモシ……

      客、ホイッスル強く吹く。
      博多チャンボンの女、汽笛ふえふく。

博多チャンポンの女  北斗七星、杓の左上のほう。一つの彗星です。この地球に最接近します。まもなく八千年の旅を終え、再び、一万四千年の旅に出るのです。やがて太陽に最接近し、遠ざかっていく。そのとき太陽の熱で、蛋白質は生まれるでしょうか。可能性がないとはいえません。そうなら、その可能性は、生命を育むでしょうか。

      音楽大きくなる。
      照明容暗にむかう。
      音楽小さくなるなか、汽笛ふえ、鳥ふえ大きくなる。

[  ◆  

      容暗のホイッスル、笛のなか音楽割って入り、大きくなる。
      待合室。
      待合室にも種々雑多であるが、ここは何の待合室か。今のところそれはまだ分からない。
      待合室の長椅子の二つ開く。棺桶の蓋が開く。
      蓋から光もれる。その中から笛の音聞こえる。
      さて、演劇的な約束ごとを総動員して、劇的に、つまり壮大に、期待感をうえつけて、その蓋は開かなければならない。
      それぞれ頭だけ死装束の檻襖の女´△瞭鷽諭
      綿火薬、人魂のように燃える。
      出る。演技、動く。それぞれ距離をとった椅子に座る。
      ここまでが演技を演技する。
      以後、演技をしない演技である。演技でないといいたいのだが、演技が自立独立してあるのではない。舞台を想定するとき、その主体にとって、ここまでが演技であり、ここから演技でないということはできない。
      今、ここにわれわれの現在がある。これが前提であり、そこから演技の時間が照射され認識される。この意味で演技とは行為の結果に実体化された個別的な概念である。この個別性が抽象化になれば演技と呼ばれる。
      いずれにしろ演技とは、今、ここにわれわれの現在がある、から出発した仮設された行為といえる。また、この仮設された行為が時間として認識されないとき、あるいは意識されないときそれは、ここにわれわれの現在がある、に重なることになるにすぎない。換言すれば仮設された行為が時間としてないということになる。ここにわれわれの現在がある、ままである。したがって演技をしない演技とは、二重化された自己が仮設された行為を生きることの別名である。さらに仮設された行為とは思想であることは言をまたない。
      ということで仮設は行為されるのだが、老婆心ながら物語とは、仮設された行為が演技の時間を駆逐することをいう。現実は抽象化され物語として生きるのだ。逆説としていってしまうが、現代であることの困難性とは、裏返った物語の時間こそ現実というところにある。オウム真理教とはその証左にすぎない。やはり物語はいまだとぐろを巻いている。

女 ,佑無駄話していい。
女◆,修Δ佑─
女 ,△蠅修任覆い發痢
女◆,△燭靴虜睇曚涼羶
女 ー分で、おもしろい?
女◆,修譴犬磧△△蠅修任覆い發痢
女 .ックリ腰の錦蛇。
女◆ー分で、おもしろい?
女 ,錣襪ったわね。じゃ決めてよ。はい、ありそでないもの。
女◆…嗣椶離侫ロウ。
女 .▲◆璽◆
女◆,△蠅修任覆い發痢
女 .察璽蕁蕊の女子高生の純潔。
女◆ー分で、おぢしろい?いっちゃ悪いけどオジンの発想よ。
女 ,韻辰海Δ韻覆欧覆鵑犬磴覆ぁ
女◆,い笋茵口臭いんだもの。
女 ,修Δ覆痢⊇いと思ってない奴ほど臭いの。
女◆.ハハてあたしの前で笑われると、純潔奪われたって思うもの。
女 ,△蕁駅前のバス停の椅子にそれあったわよ。
女◆.Ε宗次△燭い悗鵝K困譴燭鵑澄
女 ,△蠅修任覆い發痢
女◆〕霊の足。
女 ,修譴呂覆い痢
女◆,世らないんじゃない。
女 ,修譴蓮△覆気修任覆い發痢
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女 ,△燭靴離轡礇優襪離丱奪。
女◆/深造犬磴覆ぁ
女 ,曚辰箸い討茵
女◆,曚辰箸韻覆い錣茵C里蕕覆た佑聞いて、もしかしたらって恩ったらどうするの、あたし
女◆_翹できないわ。
女 ,いい犬磴覆ぁ人柄はどうしようもないんだから。
女◆,いい─許せません。
女 ,△蠅修任覆い發痢
女◆.織海旅折。
女 〔菊颪覆箸海諭
女◆,△蠅修任覆い發痢
女 ’昌爐了猖柑刻。
女◆,覆鵑覆痢△修譟
女 ,いい里いい痢ありそでないもの。
女◆.撻鵐ンの冬支度。
女 〔菊颪覆里个辰り。
女◆,△蠅修任覆い發痢
女 /總しの全酪牛乳。
女◆.亜次
女 ,△蠅と。
女◆,曚蕁△△痢峺生省の書類」ってのよりもいいわよ。社会性が閑かな田園風景に隠れたうえに、批評性が牛乳という日常性をもって語られる。総じて逆説。決まったわね。質が違うわ。超いい。
女 _鮴發半了拭△△蠅とうね。
女◆,燭泙砲錣諭
女 ,礼にこれ受け取って。

      と、扇子を渡す。

女◆,泙△Δ譴靴ぁ△△燭契雹劼覆ったのよ。
女 〜把召貿Г瓩蕕譴襪蛤い襪韻鼻
女◆.淵皀献礇蕁▲淵皀献礇蕁▲淵皀献礇蕁△┐┐、ナモジャラ……
女 ,匹Δ靴燭痢
女◆)睨〇箸い里僂△気鵑、扇子に魔法をかけてんのよ。すると扇子はみるみるまに、椿にかわり、椿はドラゴンにかわり、空をひとっ飛びよッ!
女 ,錣◆璽轡紂璽襦それで思い出した、ゴジラのオナラ。
女◆,┐叩
女 ,△覆燭痢△△蠅修任覆い發痢△△辰燭犬笋覆ぁ
女◆.乾献蕕離ナラ?
女 ,修Α△修譴△燭薫貳峭イ。
女◆,泙△諭たまにはヒットもあるわ。
女 ,世辰董▲ナラがスカッペだってもよ、プー一発の風圧で何人死ぬか判らないのよ。ゴジラのオナラが毒ガスだったらどうすんの、関西全滅かもよ。
女◆‘本列島全滅だったりして。
女 ,修寮疆戮里覆気いいわ。人の死をギャグにしちやいけんわ。
女◆,犬笋△鵑燭痢崑の原子爆弾」はどうなるのさ。
女 ,覆砲い辰討鵑里茵△△鵑燭痢屮團気亮佚磴テリトリーのピザの宅配屋」には負けるワ。
女◆,匹海だめなのよ、普通じやないのよ、駄洒落入れてワンランク上げさせていただきましただけです。
女 ‖勿落人れりやいいってもんじやないわ。
女◆,△鵑燭痢嵌鷁断製剤入りのアイスクリーム」
女´◆ 帖
女 ー佞辰燭犬笋覆ぁすいません、て。差別でしたって……
女◆,澆鵑兵佞辰討鵑里茲諭みんな……
女  帖
女◆,佑─
女 ,─
女◆(垢い討いぁ
女 ,覆鵑任癲帖
女◆’昌爐了猖柑刻、てなに。
女 ,修譴蓮△世ら、ありそでないもの、よ。
女◆,錣燭靴両豺腓呂匹Δ覆鵑痢
女 |韻覆覽だ笋犬磴覆い痢
女◆,修鵑覆海箸覆い錣茵0豈仮死状態だったんだから。
女 ,世ら、仮りの死でしょ。死んでないの、意識不明なだけ。
女◆‖臟召さぽってただけだっていうの。呼吸は停止してたのよ。そりゃ瞳孔は開いてなかったけれど、脈拍ほとんどなかったんだから。
女 ,海海両脳の、こっちの真ん中の脳幹は生命維持をやめてはいなかったの。でもいいじやない、結局は死んだんだから。
女◆〆い襦こんなの、かぶっときたくないの。困るのよ。
女 〆い襪辰討い錣譴燭辰董△錣燭靴呂匹Δ靴茲Δ發覆い錣茵
女◆[笋燭い犬笋覆ぁ
女 ,△修Αそんなこというの。判ったわ。蓬莱、551のある日。
女◆ 別世襪ぁ楽しい家庭)ハハハ。
女 ,覆て。
女◆  憤鼎ぁ暗い家庭)……
女 .蹈潺!
女◆ 帖
女 .瀬瓩諭もう一度いくわよ。
女◆,いい錙
女 )莱、551のある日。
女◆ 別世襪ぁ楽しい家庭)ハハハ。
女 ,覆て。
女◆  憤鼎ぁ暗い家庭)……
女 .蹈潺ッ!ロミオッ!ロミオーッ!
女◆ 帖
女 ,錣った?反応なし、なんどやっても同じよ。
女◆^磴Δ錙8渊叔ぐらい前までは、ロミオって聞いただけでこの胸は高鳴ったわ。嘘じゃないのよ、本読むでしょ、その中にね、カタカナのロがでてきただけでもうダメ・わかる.でしょ、そんな気持ち。
女 ,錣るわ、わかるわよーッ、ロミオッ! ロミオッ! ロミオーッ!
女◆,笋瓩謄叩どうして、どうしてなの。
女 ,△鵑燭、ロレンスの話しになんか乗るからよ。あいつは坊主よ、坊主が人を糎すアイデアなんか出すなんて信じられないわ。それが大間違いだったのよ。なにが運命のいたずらよ、あんたが薬呑んで倒れた後、結局面倒みれなかったんじゃない。坊主の手紙がロミオに渡る前に、ロミオが先にあんたを見付ける可能性大いにあるわけ、でしょ。信じられないわ。
女◆,世らどうなのよ。
女 .魯奪リいうわ、あんたらのは心中じゃない。
女◆仝緜匹た潅罎茵
女 ,△鵑燭そう思ってるだけ。
女◆,犬磴覆鵑覆里茵あんたなんか心中もできなかったくせに。
女 ,修Δ茵
女◆.曠蕕曚蕕瓦蕕鵑覆気ぁ     ・
女  帖弔いぁ△△鵑燭覆鵑物語から弾き飛ばされてしまったの。なんであんたこんな待合室にいると思ってるの、冗談じゃないわよ。付き合いきれない。帰れないんでしょ。行くにも行けないからじゃない。
女◆々圓韻襪錣茵
女 ,犬禮圓なさいッ。ロミオはきっとお花畑通っていったわよ。その先には川があるの。それをしっかり渡りなさい。振り返らない。どんな親しい人の声が聞こえたって、振り返っちゃだめよ。振り返るとそれで終りよ。いい、真直行きなさい。真直ね。
女◆,い弔泙嚢圓韻个いい里茵
女 ,い弔泙任發茵ロミオが行った後をね。あんたはもう永遠にロミオと逢うことがないの。後を追うだけ。
女◆,い笋茵
女 ,犬磧△海海蚤圓舛覆気ぁロミオがこの無限を一回りして遣ってくるまでね。逢えるかもしれないわ。
女◆〔妓造魄豌鵑蠅覆鵑董△△襪茲Δ任覆い海箸い錣覆い如
女 ,いい┐△襪錙
女◆,覆砲个いってんのよ。
女 〕限があって、そして初めて無限があったの。無限はいつも有限に絡みとられている。何もないっていうのは、ただ解らないだけ。
女◆ 帖弔泙世いΔ弔發蝪隋
女 ,修Δ諭△△蠅修任覆い發痢それは無限。あるのは無限という概念。信じることのできる時間かしら。
女◆[圓靴い痢帖弔海鵑覆箸海覇箸蠅瓦箸い辰討覆鵑砲覆襪痢そんなの止めてッ!
女 ,修Δ任發覆い錙
女◆,┐叩
女 〇杏看前わたしの無限は百年でした。
女◆,┐─△△覆燭鰐欧辰討襪世韻任茲ったのよ、無限であろうとなんであろうと、そんなもん関係ないじゃない。ほんとうのことをいえば、眠ってさえいなかったんだわ。フィリップから、キスされたことさえ憶えてないんだから。冷凍催眠がとけたら、フィリップがそこに立ってただけじゃない。いったいそれってなに。
女 ,い泙量妓造楼賈四千年。
女◆,┐叩
女 /佑ね今、思い描くことのできた、無限のはて。
女◆,△辰修Α
女 ,海涼狼紊剖瓩鼎い董宇宙を旅し一万四千年の後に還ってくる、一つの彗星。それがね、いま、人が思い描き、信じることのできた最大の時間なのです。
女◆,覆鵑任垢辰董
女 ,△覆燭録じれる。
女◆,笋瓩討茵
女 ,△燭靴録じれるわ。
女◆,△燭靴砲眇じろっていうの。ロミオが遣って来るまで、ここで一万四千年も待ってろっていうつもり。
女 〔欧譴訖垢離ーロラ姫の物語は、わたしが目覚めたときに終わってしまったんだもの。ハッピーエンド。するとわたしの百年の眠りとは、いったいなんだったのでしょう。
女◆ 幣个Α法帖弔錣燭靴燭舛呂諭帖弔任六間が佇んでいるのよ。なぜって、あなたは物語にゆきはぐれてしまい、わたしは物語から弾き飛ばされてしまったの。いずれにしろわたしたちは物語から見放されたんだから……
女 ,修鵑福嵬憾通り商店街」の住人……
女´◆,世らそうねえ……ありそでないもの。
女 (語のような現実。
女´◆仝充造里茲Δ癖語。

      間。鼓動の音、すばやく大きくなり小さくなる。

女 (垢海┐
女◆,覆砲△譟

      人工心臓登場。胸をキングコングのように叩いている。

人工心臓 失礼します。そして失礼しました。
女´◆,呂ぁ
人工心臓 では。
女´◆,發行くんですか。
人工心臓 できるなら、わたしのささやかな人生のように、人知れず登場し、すみやかに退場したいのであります。
女´◆,┐─
人工心臓 それでは。
女´◆々圓ます?
人工心臓 ごきげんよう。
女 ,泙燭諭
人工心臓 あの。
女◆,呂ぁ
人工心臓 さようなら。
女´◆,△痢
人工心臓 はい。
女´◆,發Δ別れですか?
人工心臓 ええ、でも一言よろしいですか。
女 ,匹Δ勝
人工心臓 美しき獲物たちではないな、デュランデュラン。
女´◆ 帖
女◆,覆鵑任垢。
人工心臓 一言いってみたかったのです。
女´◆,呂◆
人工心臓 では。
女 ,気茲Δ覆蕁
人工心臓 お別れです。が、もう一言よろしいでしょうか。
女´◆,匹Δ覆函
人工心臓 失礼でしたらお許しください。人の視線が女を美しくします。
女´◆,曚辰箸吋叩

そんなもんの
いや、死語死語てそれ死後やな

人工心臓 愛国行進曲、あじあ号、姉さんかぶり、アルマイトの弁当箱、アンペラ、一膳飯屋、インキスタンド、.うたごえ喫茶、駅弁大学、王道楽土、おせんにキャラメル、オールドミス、霞網、かんころ飯、食ってすぐ寝ると牛になる、愚連隊、計算尺、五右衛門風呂、コッペパン、逆さくらげ、千人針、ソノシート、蓄音機、出歯亀……
女 ,砲い舛笋鵝△覆鵑世鵑佑鵝
人工心臓 おお失礼、吾をわすれていました。
女◆)困譴鵑福
女 ,如
人工心臓 では続けます。赤線、赤チン、アセチレンランプ、一銭五厘、越中ふんどし……
女 ,┐┐げんにしいや。
女◆,覆鵑笋佑鵑栃垢い討鵑筺
女 .ぅ鵐スタンド、逆さくらげ、出歯亀、赤線、赤チン、そんなのいやらしすぎる。
女◆,△鵑拭逆さくらげ、出歯亀はわかるわ。でもインキスタンドや赤チンの、どこがいやらしいのんや?
女 ,覆鵑箸里Α語呂というんか、響きがいやらしいやん。
人工心臓 死後のことを考えておりました。
女´◆,悗─
人工心臓 存在のはかなさが、わたしの心を打ちます。これがその音です。聞こえますか。詩人がうたいました。
   存在のはかなさよ
   飛沫の消え去るうつろいは
   ああ 乙女心の有為転変
   風吹く街の悦楽の雲
   ……
女 ,修譴世譟
人工心臓 すいません。わたしのでたらめです。
女 ,△鵑燭曚鵑泙砲┐┐げんにしいや。
人工心臓 死後のことを考えてたもんで、ゴホゴホ、死んだら、人生苦しまないでいいんでしょうねえ、人生の先輩方。
女◆〇ていッ、死後死後てそれは、あんたのは死語やないか。いか。にいちやんあんたいいかげんにせなあかんわ。
女 .轡乾轡瓦討△鵑拭∈乱するよな私語やめえ、なにゆうとん。
女◆,修笋て、こいつのシゴはやなあ。
女 ,修辰舛濃纏しとけッ。
人工心臓 混乱させましたね。失礼します。
女´◆.灰薀叩待ていッー・
人工心臓 待ってもいいのでしょうか。
女 ,┐┐皸いもよういわん。でもなんとかしてからにせいよ。
人工心臓 みんなから忘れ去られ、死んでいった言葉の無念、死語に思いを馳せておりました。そうせずにはおれません。ああシミーズ、ろくろ首、ああブルマー、人魂、ああズロース、座敷わらし、ああもんぺ
女◆,發Δ┐─△修譴蓮
人工心臓 こんな死語達に思いを馳せるとき、無常の響きがわたしの胸を打つ。この痛みはなんなのだ。このチューブがこのように、まとわり付いてからだ。共鳴させてみましょう。ホラ、聞こえます。ホラ、あなた方にも聞こえますか。どうです。
女 ,覆鵑笋佑鵝はよもう失礼してんか。
人工心臓 そんなこといわずに聞いて下さい。
女◆〇廚すみ聞いてどないすん。
人工心臓 こんなわたしでも、まだ死んだことはない。わかりません。いいですか。これは死語達のメッセージです。聞き届けてやりたいのです。この心臓はわたしの心臓ではないのです。一旦、生体から取出し、加工し、機械化してこのわたしの胸に収めたものです。一時死線をさ迷ったそんな心臓なのです。だからこそ聞き取れるはずなのです。なんですかその顔は、わたしは、死の準備をして死の旅路へ旅立ちたい。何も解らずに一歩踏み込む恐怖こそ、死に等しいではありませんか。さあみんなで、死語達のメッセージに耳をかたむけましょう。みんなで聞けば恐くない。
女◆,△鵑申ゞ鬼愀犬諒?
人工心臓 えっ?
女 ,韻辰海盛り上げますやん。
女◆,海譴辰討發靴して、あれ。
ごまかすなッ!
女 ,△鵑神睫世靴燭蝓
人工心臓 えっ。
女◆\睫世辰董△海亮蠅一番しんどいやん。思い込み持ってんやもん。
人工心臓 えっ、えっ。
女 ,匹Δ任發いい笋鵝
女◆,修蕕泙△修Δ筺
人工心臓 待ていぃ。なにゆうた。
女 \睫澄
女◆(垢海┐鵑った?
女 ーわるいんちやう。
人工心臓 説明って、説明って、説明って……できるん男‥
女◆\睫世笋蹇
女 ,呂茲笋辰燭欧Г筺
人工心臓 お待ちなさい、わたしの人生の友達。
女´◆〕達やないわい。
人工心臓 わたしたちはもうすでに、何度か別れを悲しみあいました。わたしの人生の友達。
女◆“瓩靴い覆ぁ
人工心臓 ごまかすなッ。
女 ,△△發Δ笋笋海靴ぁ△呂萓睫世笋辰燭欧Г筺
女◆,いい泙后ええかよう聞きや、四五は二十や。
人工心臓 ……
女 ,覆砲いΔ箸鵝それいうんなら、四五の次は六や。
……聞こえるかいッ。
女◆“冉唆饌の常人よ、四五の次の六は、六道の六に通ず。地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上の生命界、始めもなく終りもなく、未来永劫に生死輪廻するは、われらが煩悩。我欲、我執、我慢、我見を滅せよ。さすれば永遠の安楽に到りうる。
女´◆仝ろッ!
女 仝えるかい。しっかりと見ておくれ。なんの説明がいるものか。見たとおりのものが、お前の求めるメッセージのすべてだよ。驚いたかい、それともガッカリかい。
女´◆ 幣个ぁ法帖
人工心臓 待てッ。
女´◆,い弔泙任眤圓弔茵
人工心臓 ……わたしは、わたしの命をかけて、死後との合一を願った。見ろ、この左心室からのパイブをこうして析るのだ。大動脈への鮮紅色の血塊は動きを止める。まもなくわたしの意識はうつろいの海へ船を出すだろう。我慢だ、我慢だ、自我と他我のその裂目まで帆を張り、舶先を向けろ。まだだ、まだだぞ、薄れいく意識を針で刺せ。こうして、わたしは、わたしの心臓を豚の餌にくれてやることで、意識を操るこの人工心臓を手に入れたのだ。それは、物語の究極の地平ではないか。命あるものが死をその手に入れるのだ。それを邪魔するとはどういうことだ。説明するだと、どういうことだ。このわたしの人工心臓をどうしてくれるのだ。……間もなくだ、間もなくだ、ほら、音が聞こえてきたぞ、間もなくだ……

      携帯電話の呼び出し音。
      チャンボンの女、舞台奥いる。
      受話体制。
      チャンボンを吹く。

チャンポンの女 モシモシ……
人工心臓 モシモシ……

      チャンボンを吹く。

ャンポンの女 モシモシ、聞こえますか、聞こえますか。もう一度吹きます……

      チャンボンを吹く。

人工心臓 ……
チャンポンの女 聞こえますか、聞こえますか……
人工心臓 微かに聞こえます……

      チャンボンを吹く。

チャンボンの女 モシモシ、聞こえますか。宇宙と世界が交信を交わす音です。この音がするときわたしと宇宙が交信を交わします。このちっちやなチャンボンをくわえることで、わたしと宇宙は遮られます。それは、すべての中で孤立したわたしです。息を止めて吸うと、宇宙は少しわたしを押し戻す。いまわたしは、このありとあらゆるすべてのなかで、宇宙のなかで、皮膜一枚を接して釣り合っています。ふたつのありとあらゆるすべてが、ふたつの宇宙が釣り合っているのです。
女´◆ 帖
チャンポンの女 いかがでしょうか。
女 ,悗─
チャンポンの女 チャンポンいかがですか。
女◆.蕁璽瓮鵑呂笋辰兒ニ撻蕁璽瓮鵑舛笋Α
女 ,箸鵑海弔蘯里討たい。
チャンポンの女 博多チャンボンです。
女◆,瓦辰弔ぬ佑笋鵝えらいこっちや、ゆでられんで。
女,△鵑拭
チャンポンの女 吹いてみます?
女◆,┐┐痢
チャンポンの女 ええ。

      女△惑鄲織船礇鵐椒鵑鮨瓩。吸わないで吹いている。

女◆ 別弔蕕覆ぁ砲覆鵑笋佑鵝L弔蕕鵑笋鵝

      チャンボンの女が吸う。鳴る。

チャンポンの女 ほら、いい音でしょ。
女 ,┐┣擦笋鵝
チャンポンの女 吸うんです。
女◆,△鵑拭▲織海砲海Φ曚ど佞れたら、あれはタコに吹いつかれたいうん。タコの吸盤はなあれ、吸いつくんや。
女 ,い舛い船椒韻覆筺
チャンポンの女 凧は、吸い付きません。空に舞い上がるのですよ。
女´◆ 帖弔錙次△もろな。

      チャンボンの女、行く。

女´◆,んにん。かんにん。
女 〆能蕕呂世譴てそうやて。
女◆,舛笋Α△燭泙燭泙垢戮辰燭世韻茵△諭
女 .札鵐垢△蠅修妨える。いい。無口なだけやろ。
……
女◆,△欧襪錙もう用ないから。ほんとにわたし用ないの。
チャンポンの女 (チャンボンを吸う)……

      人工心臓、チャンボンの音に合わせたように立ち上がろうとするが、ついにドタッと倒れる。

人工心臓 (起きる)俺は今生きているのか、それとも死んでいるのか。それともどちらでもないのか。意識よ考えろ、考えろ意識。お前がその思いをめぐらすうちは、俺はまだお前を信じてやろう。しかし、いつまでもこの俺を信じるな。お前の生命線は、いま俺がこうして握っているのだからな。お前を生かすも殺すも、俺の胸先三寸、それを忘れるな。どうした心臓はもうすぐ鼓動を止めるぞ。血流はお前の海原へ流れ込まぬのだ。どちらだ、時間はない、早く答えろッ!
女 .泪犬笋鵝△覆鵑箸せなしょうないなあ。
女◆,任へん。この手、ガチガチや。
女 ,發Δ┐─△茲Υ萃イ辰拭こんなに頑張ったんやから、許される、間違いない。
人工心臓 いかにも生きてはおれぬ身、だからこそここに来たのだ。
女 ,△鵑燭僚佝屬筺
女◆,─△─△覆鵑如△匹Δ靴撞泙砲海Δ覆襪痢
女 ,錣りまへん。
人工心臓 いや、そうではない、亡き若人よ、ここは光明の高窓だ。見ろ、ジュリエット姫が眠っている。そしてその美しさがこの奥城をまるで光り輝く宴の広間にしているのだ。
女 ,海薀▲ン、最後の錆乱にまいりました。なんとかしたり。
女◆,匹發覆蕕鵑錙
女 ,修海鬚覆鵑箸せいや。
女◆,曚福好きなとこ一つ。……'これは?盃が、しかもロミオ様のお手にしっかり握られて?わかった、毒を飲んで、思わぬ最後をお遂げになったのだわ。
人工心臓 間もなくだ。そうしてこここそ4、俺にとって永遠の恚いの場所であり、今こそこの薄命な星の範を、この世に倦み果てた肉体から、振り捨ててくれるぞ。眼よ、よく見ろ、名残りだぞ!
女◆,泙誠阿砲蓮毒が残っているかもしれぬ。あなたの唇に接吻して
人工心臓 後生だから、それは止めろ!
女◆,覆鵑笋謄叩爾匹ΔいΠ嫐やッ!
女 ,△鵑振譴靴い鵑笋蹇止めえや。見てみて、盛りあがってんのあんただけやで、シラケヘんか?力まんとしゃべり。
人工心臓 ここへ来たのは、われと自分を殺す決心で来ているのだ。心臓の鼓動音が大きくなり小さくなる。

      心臓の鼓動音が大きくなり小さくなる。
      チャンボンの女、砂の入った小瓶をカバンから出し、人工心臓に示す。

チャンポンの女 (鼓動音に割って入る)臨時ニュースを申し上げます。十二日午後六時五十分ごろ羽田空港から大阪空港に向けて飛行中の日航ジャンポジェット機百二十三便が、後部ドアの破壊を訴える東急連絡の後、消息をたちました。安否が気遺われています。臨時ニュースをお伝えしました。

      この時、人工心臓とチャンボンの女は向き合っている。

チャンポンの女 ああ、あれは人声?ぐずぐずしてはいられない。おお、短剣1この胸、これがお前の鞘なのよ。
人工心臓 間もなくだ。しぱしの辛抱だ。―いかにも生きてはおれぬ身、だからこそここにこうして来たのだ。

      と、人工心臓はついに倒れた。

チャンボンの女 これは一九八五年八月十二日、群馬県御巣鷹山の土。
女´◆ 帖
チャンボンの女 一九六六年二月四日、全日空ボーイング727羽田空港、着陸失敗、海底の砂。一九六六年一一月一三日、全日空YーS11、松山空港沖に墜落、沖合の砂。これは一九七二年二月一九日、軽井沢浅間山荘銃撃戦、山荘の土。一九八八年三月二四日、南京発杭州行き三一一列車、修学旅行列車正面衝突、高知学芸高校の校庭の土。一九九一年五月一四日、信楽高原鉄道普通列車、信楽駅出発後正面衝突、敷石の粒。
女´◆ 帖
チャンポンの女 いかがでしょう。
女´◆,─帖
チャンポンの女 この方には、これを少し買ってもらいました。サービスで、このキャピュレット家の庭の土も少し差し上げたんですよ。
女´◆,呂ぁ帖
チャンポンの女 サービス品は色々あります。いかがでしょう。よかったら買って下さい。
女 .察璽襯好譽妊ー?
女◆ー磴い里剖賚してんや。いつから?ご両親、小学五年生のときに亡くなられたんやろ。苦労したんや。いわんかていい。わかる。辛いこともあったやろなあ。叔父さん夫婦に育てられ、世間の風をみにしみて、流す涙の未練花、思い出します子供のころを、花咲く花に願かけた、夢と咲こう花ともろとも、一九九六年のこんこちわ……いまでは弟、お姉ちゃんに感謝してるとおもうで。そらロには出しません。男の子はそういうもん。朝晩の布団のなかで手え合わしてます。その手のなかにあんたと弟のちっちゃな春はあるんやで。この際やから教えといたろ。そのなちっちゃな春、サランラップにくるんで、解凍パターンで電子レンジにいれたり、ごっつい春になるんちゃう。
女  帖弔發Δいぁ終わった?
女◆ー茲蟯困┐此
女 ,△鵑拭¬詰があるわ。
女◆,匹海?
女 ,─
女◆,匹海北詰があんのよっていってんの。
女 ,皸貪戞△┘達后鼎△鵑拭▲僉璽弔犬磴覆い痢時代設定に無理があるんじゃない。戦前じゃないんだから。
女◆\鐐阿縫汽薀鵐薀奪廖電子レンジあるの?
女 ,覆い錣茵
女◆,任靴隋J原腓覆い任靴隋
女 ,世ら、両親が死んだとしても、保険とかなんとかあるわけで、兄弟三〜四人マンション暮しでいいじゃない。遺産が追加されたら、どうすんの。
女◆,修蕁次▲淵Εい犬磴覆ぁ
女 ,任靴隋△修両紊茵下々の暮らしを交換の概念で再検証、だったりしたらもうお手上げじやない。
女◆,修貂い襦
女 ,任靴茵
チャンポンの女 お話し中ですが、これ。      ・

      と、女,魯船礇鵐椒鵑僚の差し出した線香を受け取る。チャンボンの女は祭式よろしく、線香をあげる準備をしていた。
      女◆∪香を持つ女,妨かって合掌。

女 〇澆瓩覆気ぁ△笋瓩覆気ぁ
女◆,┐叩△△燭靴覆砲した?まあ、この場合あたしが悪いのかしら、それともあなたの前だと、手が勝手に判断するのかしら。ああ恥ずかしい。
女 ,靴蕕犬蕕靴ぁ
女◆.丱ッ、バカッ、なんてことするのこの子は、ご主人様の気持ちを無視して露骨にやればいいってもんじやないの、情緒は、思いやりはどこに忘れてきたんだい。いくら苦労したってそんなことは教えませんでしたよ。まあ、涙なんか流して、泣きたいのはこのわたしですよ。

      と、泣く涙を祭壇へ、合掌した。

チャンポンの女 悲しいですか?
女◆“瓩靴い隼廚Α
チャンポンの女 いいえ。
女 ,海譟∧屬垢錙
チャンポンの女 返されても困ります、差し上げたのですから。
女 ,修蕕めへんけど、こうされると……いい、うちの線香代高いで。
チャンポンの女 え?
女 _崑紂
チャンポンの女 え?
女 ,海寮香が燃えてしまうまでがな――――
女◆,修鵑覆海箸罎Δ燭辰堂鬚蕕悗鵑董
女 ,修蕕泙△修笋錣福
女◆,修笋蹇△曚辰箸。
女 ,┐┐鵑笋蹐?
女◆,覆砲?
女 ,修鵑覆海箸如
女◆〇代がちやうんやから、しやないやん。
女 ,靴笋覆い悩僂泙擦討┐┐鵑笋蹐。そらやっぱり、あかんちやう。
女◆,修蕁△曚鵑箸Δ呂△ん。でもな、どうしょうもないやろ。
チャンポンの女 あたしのことが――
女 ,△鵑拭△修鵑覆海箸いΔ討燭蕁△覆鵑發も、どうしょうもないんちやう。
女◆,修筺∈9垢覆砲いΔ箸鵝
女 ,修蕕修Δ笋韻鼻宗
女◆,修海泙任罎Δ鵑覆蕁△笋蠅い筺やって、こらあかんわていいや。うちは付き合いきれんからな、あんたが勝手にやりいや。
女 ,い弔ら、そんなに冷たあなったん。
そういう問題やない。あんたかてそれは解ってるやん。
女 ,△弔Δ覆蠅覆筺
チャンポンの女 あたしのことが問題ですか。
女◆,舛笋Α
女 ,修Δ筺
チャンポンの女 どちらですか?
女◆,舛笋Δ韻鼻△修Δ筺
チャンポンの女 矛盾しているわけですね。
女 ,修Α△錣燭靴矛で、この人が盾やね、とまあそういう訳には……
女◆,△鵑拭△修鵑覆佞Δ法嵬圭發靴討い襪錣韻任垢諭廚覆鵑董△修鵑閉承綸蠅欧討覆砲おもろいん。
チャンポンの女 ストレート?
女◆,發Δ┐─
チャンポンの女 そういうふうに拒絶されると、なんかこうファイトが湧きます。
女 ,修Δ修Α▲察璽襯好譽妊ーはそうでないとあかんわな。
チャンポンの女 ありがとうございます。
女◆,匹Δい燭靴泙靴董
チャンポンの女 さっそくですが、そのセールスレディー……
女◆,舛腓辰搬圓謄叩△Δ舛呂△鵑燭法宗
女 ,┐┐笋鵝
女◆,┐┐覆ぁ
女 ,△鵑燭呂匹Δ任發茲った。うちが、こらあかんやった、やろ。
チャンポンの女 さっそくですが、わたしセールスレディーといわれても……
女◆,△修Αじゃ訪問販売員さん――でいい
女 .侫襯ァ
チャンポンの女 テレホンショッピングコーディネーター。
女´◆ 帖弔覆鵑覆鵝
チャンポンの女 テレホンショッピングコーディネーター。
女 ,覆瓩鵑覆茵△世ら、そのテレテレ、テレ、ビンゴー・やったーッー・
チャンポンの女 テレホンショッピングコーディネーター。
女 ,修譴筌叩
チャンポンの女 だからこれ売ってます。
女◆,茲ったやん。
チャンポンの女 買って下さい。
女 ,△里福△Δ舛蘿稱するためにここにいるんとちやうん。
チャンポンの女 そこをなんとか、お願いします。
女◆,覆瓩鵑覆茱叩健康ぶらさがり機、収納ボックス大中小、ハンガーカバー大中小、羽布団、磁器ネックレス、耐火金庫、低周波治療器、全部もってるッ。
女 .ッツだぜ!
チャンポンの女 すごいですね。
女 .ッツだぜ! 老いも若きもガッツだぜ!
女◆,△般気い里鵑蓮健康肌着だけや。
女 ,笋辰燭笋鵝あんたそれ、売ったあげぇや。よかったな、ノルマ達成やろ。よかった。よかった。これで帰りに、お土産買えるやないの。小学三年の女の子やろ、ケーキぐらいでちょうどとちやう。ハイハイ、あんたお金。いくら?あんた何しとん、早よしいや。間にあわへんやん。小学五年の女の子、塾から帰ってくるんやで。先に帰っとかなあかんやん。なに考えてん。
チャンポンの女 あの、それー
女 ,いい福解ってる、解ってますって。この人、二年前から別居中です。ちっちやい子を女手一つで育てながらの、バリバリのキャリアウーマンです。そうはいうたかて、限度があります。生活のことではありません。生活は、慰謝料と月々の養育費があるから、贅沢せんかったらだいじょうぶ。でも、才能と資質は社会にでてなんぽや。それをやりぬくにはここで切り上げてかえらなあかん。あたしは賛成いたします。これからの女性はそうでなくてはなりません。頑張って下さい。そんなあなたの生活こそドラマです。
女◆,發Π譴弔笋覆◆4待はずれや。
女 ,匹Δ靴董
女◆(語がないやん。人生やろ、もりあがりたいやん。
女 ,覆鵑笋董△修鵑覆靴腓Δ發覆い發鵑匹Δ任發┐─J語がないとあかんの。そんなもん沖縄の米軍基地や。
女◆,覆鵑笋佑鵝△修譟
女 ,覆てもな、やっていける。
チャンポンの女 それ、困ります。
女 |羚颪硫鵑啓圓笋福
チャンポンの女 え?
女◆,覆鵑任筺△修譴いΔ鵑覆蕁▲▲瓮螢やろ。
女 ,△鵑燭┐┐、基地がなくなったら困るのは、アメリカでも日本でもない、中国。なくなってみい、どないやって一般大衆に危機感うえつけいうん。そやろ物語てそんなもんや。ちやうか?
女◆,覆鵑強引やけど、そうか?
女 ー信もたんかい。
女◆,呂ぁ
女 ,發辰燭蕁△弔屬気鵑い1・
女◆.ー!
女 ,修里燭瓩砲Δ舛蕕呂海海砲い襪鵑筌叩
女◆,修Δ瀬叩
女 /予けや。怒濤の人生なんかにまきこまれてみ、それはあかん。現実が見えへんなる。人生あまいもんちやう。ささやかなもんや。
女◆,海海砲靴辰り足つけたうちらやッ!
女 ,修Δ筌叩
女◆,修笋ら、そんなうちらやからいえるッ!
女 /佑砲楼造蕕を、主婦には愛を、定食には一杯の味噌汁を!
チャンボンの女 よろしいですね気楽で。
女´◆ 帖
チャンボンの女 そうなればいいですね。
女´◆,覆鵑笋董?
チャンポンの女 あたし、一人です。結婚、したことありません。
女 ,修鵑覆鵑福見たら解る。当たり前やん、だれが見たってそうやん。あんた今更何いうとん。
女◆,茲Δ錣る。あんたから身を引いたんや。宗右衛門町、そやろ。経験からゆうたら北新地いうわけにはいかんし、その器量やから十三でもなく、南の宗右衛門町でナンバーワンでした。五本の指にはいるクラプ・エレガンスのナンバーワンで売り上げが月に二百万越してました。身体はって仕事したけど、操は守ったホステスぐらし。そんなとき、ときならぬ仲になってできた子でした。相手が将来ある大蔵官僚とわかって、足をあらった夜の蝶。だまって姿を消した御堂筋。
女 /佑砲い錣譴鷆賚もしたやろなあ。
チャンポンの女 人並みです、それに――
女◆,覆鵑如△匹Δ靴董せい一杯生きてきたんやろ。「人並みです」なんて、なんでそんないいかたすんの。
女 ”塰を、腹に一物もつように蓄めたらあかんわ。そやろ。
女◆―淑やない。それだけ苦労したんやから、十分やん。贅沢いうたら限りないで、な、それでいいやん。
女 ,修鵑覆發鵑笋董9睨召澆靴燭蕕△ん。
チャンポンの女 子供いません。
女◆,覆鵑笋董
女 ,△鵑拭
女◆,覆鵑舛罎海箸いΔ鵝こんだけうちらがゆうてあげてiのに、これ以上どうせえいうんや。あんた、なに考えとん1・
女 ,△鵑拭△覆鵑覆鵝いつもこの待合室に来るみんなと、あんただけは違うゆうんか。
女◆,泙◆待ちいや。きっと――
女 ,修鵑覆鵑任ると思うてんか。
女◆,っと、歳いったおかあはんが待ってんや、そやろ。ええ、そこから先はいわんかてええ、ええて。
女 ,發Δ┐┘叩
チャンポンの女 行ったほうがいいみたいですね。
女◆,覆砲いΔ討鵝そらあかん。
女 ,┐┐笋鵝行くゆうてんやから行かしたり。
女◆,△んて。この子どうなるん。
女 ,匹Δ砲發覆蕕鵑茵
女◆,わいそうやん。
女 ,靴たがない。
女◆,修蕕覆ぃ・
女 ,△鵑拭△匹Δ靴燭鵝
女◆,覆鵑如△海了劼世韻曚辰箸韻襪鵝そらないで、なんのためにうちらここまで頑張ってきたん。
女 〇代がちやうんやから、しやないやん。
女◆,靴笋覆い悩僂泙擦討┐┐鵑笋蹐。そらやっぱり、あかんちやう。
女 ,修蕁△曚鵑箸Δ呂△ん。でもな、どうしょうもないやろ。
女◆,△鵑拭△修鵑覆海箸いΔ討燭蕁△覆鵑發も、どうしょうもないんちやう。
女 ,修筺∈9垢覆砲いΔ箸鵝
女◆,修蕕修Δ笋韻鼻宗
女 ,修海泙任罎Δ鵑覆蕁△笋蠅い筺やって、こらあかんわていいや。うちは付き合いきれんからな、あんたが勝手にやりいや。
女◆,い弔ら、そんなに冷たあなったん。
女 ,修Δいμ簑蠅笋覆ぁあんたかてそれは解ってるやろ。
女◆,△弔Δ覆蠅覆筺
チャンポンの女 長いあいだお邪魔しました。また逢いましょう。いえ、きっと逢えると思います。それではまた。
女◆ ,舛腓搬圓船叩買う。
チャンポンの女 え?
女◆’磴い泙后あんたの売ってるもの。売って。
チャンポンの女 いいんですか?
女◆,匹ΔいΔ海函うちが買うゆうてんやからええやん。
チャンポンの女 買ってもらっただけでは困るんです。
女◆‖臉擇砲靴泙后伸びるんです高枝伐り鋏、まだ捨ててへん。
チャンポンの女 そういうことじゃないんです。
女◆,覆鵑覆鵝?
チャンポンの女 はい、まあ……
女◆,△鵑織謄譽曠鵐轡腑奪團鵐哀魁璽妊ネーターやろ?
チャンポンの女 そうです。
女◆,△△笋笋海靴ぁH修蠅泙靴拭

     と、女△聾衆電話に行く。受話器取る。

女◆.献魁▲献灰献魁▲献魁▲献灰献灰献魁▲献灰献魁帖弔△鵑燭覆砲靴箸鵝△笋辰討┐筺ジコ、ジコジコ、ジコ……
女 〇故なん、どこ?一一〇番か?
女◆,舛笋ΑE渡辰けてんの。
女 ,海藜採蕁覆函電話の呼び出し音の口真似)……
女◆,△里覆靴辰り見てや。あの子携帯電話やろ。呼び出し音ちやう!
女 ,修Δい錣譴討癲覆函携帯電話の呼び出し音の口真似)……
女◆,修譴魯疋灰癲セルラーやってえや。セルラ!
女 ,─△修Δ修Δ覆痢覆函携帯電話の呼び出し音の口真似)……
女◆.帖璽ーホンやん。なにやってんの!
女 ,┐┐げんにしてや。なにやってん。そんなん判らん。うちになにさせるきいや。電話やったら十円入れてかけえや。アホなことさせなッー・
女◆.謄譽曠鵐轡腑奪團鵐阿笋蹇E渡辰けなどないすん。
女 .▲曄電話番号まわさんかい1・
女◆‥渡暖峭罎覆鵑知ってる訳ないやん。
女 ,發Δ┐─そこにいるんやから、最初っから聞いたらええやん。直と向かって注文せえよッ!
女◆_燭罎Δ箸鵝リアリティーはどないなん。痩せても枯れてもテレホンショッピングや。電話してなんぽやろ。その手続き抜いたらテレホンショッピングちやう。
女 ,海海傍錣襪鵑笋如
女◆,修譴どないしたん。「ねえちやん、これ頂戴」「電話でお願いします」どないしてくれるん。責任とってくれんか!
女 ,修鵑覆罎Δ討澆覆錣らん!・
女◆.肇蹈い海箸いい福振込みはどないすん。現金渡せてか、ええかげんにしや。そんなもんテレホンショッピングちやう。クレジットカードか引き落としにせんかい。子供の団扇は定規やッ!
女 .灰皀鵐札鵐垢いぁ
女◆_鬚辰討鵑笋辰燭蕕笋蠅い筌叩一つ一つの積み重ねやろ、いい加減なもん割り込ませたらうちらどないなん。そうやって今日まで来たんや。夢見たいなこといいなッ。なに期待しとん。なんにも起こらへんでッ!
女  雰搬單渡辰慮討喀个群擦慮真似)……
女◆.札襯蕁爾笋董△修譴魯妊献織襯曠鵑笋鵝
女  雰搬單渡辰慮討喀个群擦慮真似)……
女◆。丕硲咼叩▲札襯蕁宗宗
女  雰搬單渡辰慮討喀个群擦慮真似。悲惨)……
チャンポンの女 ……モシモシ、お待たせしました。
女◆.皀轡皀掘帖
チャンポンの女 お電話ありがとうございます。
女◆.皀轡皀掘▲謄譽曠鵐轡腑奪團鵐阿任垢?
チャンポンの女 そうです。
女◆’磴い燭い鵑任垢、まだいけますか?
チャンポンの女 はい。それでは商品番号をお願いします。
女◆,┐─
チャンポンの女 どうぞ。
女◆,△痢△覆砲ありますか?
チャンポンの女 えっ?
女◆ー造蓮▲謄譽啗てなかったんですよ。
チャンポンの女 そうですか。
女 ,燭泙燭沺△燭泙燭泙茵その時だけ見てなかったの。そういうことってあるじやない。
女◆,修譟△修両瓶なんなん。
チャンポンの女 買って頂いてかまいませんが、本当にいいんでしょうか。
女 ,┐┐茵あんたええんやて。
女◆,海譴茲蠡召砲覆い鵝
チャンポンの女 なにがお望みですか。
女◆,修笋覆◆¬斉の出てくる玉手箱。
女 ,┐┐笋鵝
女◆,修笋蹇△△鵑燭蓮
女,罎Δ討まへん?
女◆,いぁ△覆鵑任發いぁうちらかて、ゆうだけはええで。
女 ,曚鵑覆蕁⊆磴て美人に見える鏡
女◆ 帖弔┐┐笋鵝 でもやで、見えるだけや、悲しいんちやう。
女 ,覆鵑笋謄叩
女◆,罎Δ世院
女 ,曚鵑如
女◆,曚鵑任董△發箸發箸妨続Δあんさかい――
女  帖
女◆,罎Δ世韻笋董
女 ,世らッ。
女◆〔ね茲慮える鏡はどない。
女 ,┐┐?
女◆,修蕕┐┐な。宝くじ、株券、馬券、なんでも判ってんやで、バッチリやない。お金ガポガポや。
女 ヽ券、税金あんで。
女◆.轡澆辰燭譴鵑福△燭がしれてんがな。好きなだけくれたり。そんで、高級エステでお金ばら撒かんかい。皺のばさんかい、肌ピーンと張らんかい。
女 ,┐┐笋鵝それちょうだいッ!
チャンポンの女 それですか。
女◆〔斉の出てくる玉手箱ッ。
女 〔ね茲慮える鏡ッ。
チャンポンの女 わかりました。
女´◆,△襪鵝?
チャンポンの女 どれにしましょう。この中から選んで下さい。
女 ,Δ宗璽叩
女◆,泙気ーッ! お芝居みたいやん!
チャンポンの女 手に取って見て頂いてかまいませんから、どうぞ。
女 .謄譽曠鵐轡腑奪團鵐阿舛笋Δ澆燭い笋鵝
女◆.謄譽曠鵐轡腑奪團鵐阿呂海海泙任海覆△ん。
女 ,修Δなあ、これは?
チャンポンの女 羽田空港沖、海底の砂。
女◆,修譴犬磧△海譴蓮
チャンポンの女 あ、それ振り回さないで。松山空港、沖合の砂。
女 ,海譴蓮
チャンポンの女 軽井沢浅間山荘の土。わかります?その中には、散弾銃の弾が何発か入っているんです。ちっちゃいけど、鉛の弾。
女 ,海譟
チャンポンの女 高知学芸高校の校庭の土。それ、アンツーカー混ざってるからすこし赤いでしょ。血痕ではありませんので、心配なく。
女◆,海譟
チャンポンの女 信楽高原鉄道、敷石の粒。
女◆,修了ってるのは?
チャンポンの女 これは、売約済です。あちらの方に買って頂きました。群馬県御巣鷹山の土。
女´◆,覆い笋鵝
女 〔ね茲慮える鏡、どこあんの?ないやん。
女◆,△鵑拭АΑА
女 ,△襪罎Δ燭鵑笋如△△鵑拭G寄捕まえて嘘ついたらあかんわ。それが金の代わりやゆうんなら可愛げがある。うちも「そうでっか」ゆうて笑うたげる。でもな、年寄の夢、出汁にして商売したらあかんて。
女◆,△鵑燭董帖
女 ,Δ襪気ぃ院Δ海譴呂發商売の話やない、そやろあんた!
女◆,△△修Δ筺
チャンポンの女 あの……
女 〔曚辰箸、あのな朝ご飯食べて、昼もご飯食べて、夜もご飯食べて、あったかい一杯のお茶飲めて、お布団に寝れたらそれでいいやん。
女◆,△詭ない。明日の出てくる玉手箱、ゆうてみただけ。
女 _困笋な一日、満ち足りた日々。最高やない。
女◆,錣討蕕ここに居るかぎり、なんも波風たたせへん。
女 ,海海蓮△錣討蕕里修鵑並垤膽爾覆鵑筺
女◆,修Α
チャンポンの女 では、もうよろしいんですね。
女 ,─
女◆,匹ΔいΔ海函
チャンポンの女 テレホンショッピングです。
女´◆ 帖

      チャンボンの女、小瓶等を片付けはじめる。

チャンボンの女 あるのに見えないのは、無いことなんでしょうか。それとも見えなくても、あるものはあるんでしょうか。
女 ,いい燭い海箸△鵑覆蕁△呂辰りいいッ!
チャンボンの女 ほらこれ、見てください。群馬県御巣鷹山の土。そして、こうして耳をつけるとわたしにはなにか聞こえて来ます。恨みの声ではありません。悶絶のうめき声でもありません。歌も聞こえて来ます。不思議です。どうしてでしょうか?
女◆,Δ舛蕕膨阿な。
女 〔ね茲慮える鏡ないんならもうええ。
チャンポンの女 不思議ですね、それこの中に入っているんです。
女◆,覆砲罎Δ討鵝
チャンポンの女 明日の出てくる玉手箱は、この中です。
女  幣个Α砲△鵑燭世譴妨かって商売してん。そんな子供嘸し、ここでは通用しません。あてが許しません!
チャンボンの女 (椅子に座っている人工心臓に)この方にコーディネートして差し上げたのはそんな不思議でした。
女◆,海凌佑蓮∨性心不全。お薬貰いに来てるだけ。
人工心臓 ……あの、お薬まだでしょうか。ずいぶん待っているんですが。
女◆ー付番号何番です?
人工心臓 一〇八番です。あの看護婦さん、わたしの経過どうなんでしょうか。先生なにもいってくれないんですが、最近胸苦しくって、その上、幽霊みたいな死神みたいな亡霊見るんですよ。単なる幻覚ですよね。先長くないんでしょうか?
女◆.ープン・システムヘの切り替えもうすぐですから、だいじょうぶですよ。
人工心臓 ……
女 ,海譴呂諭⊃乾テ。圧力計ここに付けて血圧計るんですよ。グルーと回ってカルジオスコープでしょ。ほら、これは繁急用の心臓ペースメーカーのため。輸血用だ。結構大変なんですよ。
チャンボンの女 不思議が見えたのですよきっと。
女´◆,發Δ┐┐罎Δ討鵑筌叩

      チャンボンの女、女―△帽茲鮖悗啓┐后

チャンボンの女 なにがもういいのですか!

      音楽。
      チャンボンの女は壕の蓋を開け、土を手に落とす。

チャンボンの女 壕は空になってしまいました。ご覧なさい。この一粒一粒はこんな壕の中にいつまでも入っているわけにはいかないのです。大きくなって、人の心にできてしまった穴ボコを埋めなければなりません。今、この一粒一粒は五百二十人の思いのままです。それも、行き場を失った、一瞬のうちに行き場を失ってしまった思いのままです。この一粒は、ディズニーランドの楽しい思い出が詰まったままです。この一粒は、日帰りの出張のまま、思いは家族との楽しい夕食の団欒に突き刺さっています。この一粒は、息子の行く末に思いを定めています。この一粒は、新婚の妻に語りかけたままです。この一粒は、年老いた両親の明日が心配でなりません。この一粒は、隣の席の妻と子供に視線を投げたままです。この一粒は、両親の顔が焼き付いています。帰省途中の大学生の思いです。
   この一粒も、この一粒は……
   この一粒は定かではありません。腹部です。荼毘にふされるとき、後部座席と思われる方の頭部が出てきたほどですもの、行き場を失う思いさえありません。形あるものはすべて砕かれ、頭部は飛び、下腹部は大きく破れ、内蔵は脱出し、股関節は切断され、四肢は飛び散った。これがそんな一粒の数々です。一瞬のうちに行き場を失ってしまった思いはすべて、残される人々へ注がれています。そのままです。
   ……もう、おわかりいただけましたでしょうか?この一粒一粒の死は、すべて死を生きています。この一粒一粒は死を死にきれていないのです。一瞬のうちに行き場を失ってしまった思い……そんな死を生きている、死者たちの死は死者たちの問題でしょうか。死を生きる死とは、生き残された者の心に大きな穴ボコを創ったのです。その穴ボコの一つを、この小さな一粒で埋めなければ……この一粒一粒はその穴ボコを埋めるためにこの壕のなかに入っていたのです。
   この一粒一粒、行き場を失った、一瞬のうちに行き場を失ってしまった思いを生きなければ……生きてほしいのです。
女´◆ 幣个Α法帖
チャンポンの女 なにがおかしいのですか。
女 ,い辰討發いい痢
女◆,修譴蓮宗
女´◆.皀離タルコト。

      音楽。

チャンポンの女 ……物語ってください。
女´◆ 幣个Α法帖
チャンポンの女 生き残された者の心の大きな穴ボコ。物語らねばその穴ボコは埋まりません。物語ることによって死者たちの死を死にきらせてほしいのです。さあ、一つ買って下さい。この壕の中には、語られる物語が詰まっているんです。きっと未来の見える鏡も、明日の出てくる玉手箱も入っていますよ。物語ることによってみえてくるかもしれません。
女´◆ 幣个Α法帖

      公衆電話のベル鳴る。音楽を消すように大きくなる。
      容暗。

[    ]

      待合室。
      待合室にも種々雑多であるが、ここは何の待合室か。今のところそれはまだ分からない。
      各種の待合室が交差しているのは確かなようである。
      公衆電話のベル小さくなる。
      客、電話を受けている。
      女 ⊇◆⊃郵心臓居る。

客  えっ、そうですか?でも、そんなこと急にいわれても困ります。それに覚えていませんもの。たぶんみんなそうだと思いますよ。あの、それに途中で間違えたら怒るんでしょ。嘘だ、絶対怒る。ダサ。ダサ。ダサ。えっ、三番まで?あるんですか?ないですよ、聞いたことないもん。そういわれても。はい、はい、待って下さいね。アノ、川端サマ、オ客サマニ、川端サマイラッシャイマスカ?オ電話デス、イラッシャイマセンカ?もしもし、いらっしやいませんよ。えっ!? やはりわたしがですか?ザケンナヨッー・なにもいってませんて、混線と違います?困るなあ……本当に朝昼晩とこーひー注文していただけるんでしょうね、本当ですね、この店が続くかぎりずーっとですからね。聞こえなかったなんていいっこなしですよ。

      客、正調かアレンジで『君が代』歌う。
      刑事、歌の終わりの頃、拡声器を持って出てくる。

客  もしもし、聞こえました?じやいいですね。忙しいんですから。違いますって、川端さんという方がいらっしやらないだけです。忙しいんです。切ります。はいはい。えっ、こーひー出前ですか?意地悪しないで下さいよ。判りましたよ。いくつですか?嫌がってませんって。えっ、待って下さい、書きますから。

      メモの用意。
      刑事も張り込みよろしくメモる。

客  閑人ノ相手ナンデワタシガスンノ、閑ダカラッテ茶店二電話スンナヨナ。

      受話器取る。

客  オラッぴ‥あら、失礼しました。どうぞ。はい、こーひー五つですね。で、どこに届けましょう。はいはい、えっμ‥自衛隊市ケ谷駐屯地の総監室、正面の階段上がって直ぐ、森田か小川という者に渡せ。冗談だあ、冗談でしょ。違います。遠いとかそんなことじやないですよ。それに駐屯地だったら、中に茶店あります。まずくってもいいじやない。だめですよ、だめ。えっ、演説するから、一人でも多いほうがいい、十二時半までに来い。時間指定までするんですかg‥オ客サマノナカニ、川端サマ、イラッシャイマスカ?三島サマカラオ電話デス、イラッシャイマセンカ?ナントカシテ下サイ。三島サマガ、意地悪スンデスヨ、アタシ泣キマスヨ、イインデスネ!ナントカシロッ!
刑事 (拡声器で)お嬢さんッ、事件かー
客  泣きます(と泣く)……
刑事 (拡声器で)出てこい、卑怯だぞ。すでに包囲されている、おとなしくするんだ。出てこいッ!

      河合、銀行員は慌てて出てくる。人工心臓それに合わせて刑事に近づく。河合、銀行員は何か作業の途中、その様子で出てくる。
      チャンボンの女それなりに出てくる。
      人工心臓、しばらくして椅子に座る。

銀行員 なんでだッ?どうしたんですか?
河合 アポをとってからにしてくれ。わたしや忙しいんだよ。誰だよ。
銀行員 静かにして下さいね。真田さん、あたし三十八番窓口ご案内しましたよね。

      と、縫いぐるみ説ぐ。

河合 (女´△悄砲患〃いかがですか。いい夢みましたか。・……あそうですか。
銀行員 みなさん、当行は老人ホームの待合室でもありません。ましてや、市役所の待合室でもありません。ましましてや、お客さまのダベリングルームでもありません。まったく。

      銀行員、それなりに椅子に座る。河合はすでに椅子に座り作業中。

刑事 (受話器へ)世話やかせるんじやねえ。なに企んでる、この凶悪犯ッ、おい、ウンとかスンとかいったらどうだ。おいッ、おいッ。
客  ……川端さんでいらっしやいますか?あなた川端さん?あなたは?
刑事 君、この電話つながってんのか?どうなんだッ!
客  もしもし、はっきりいいますけどね、金閣寺を焼く前に究竟頂の扉を開ければよかったんですよ。開けなかったのがすべての始まりじやなかったんですか。そこから、間違いが始まったんですよ。究竟頂の扉叩き割ってでも開けて、中に入れば、はっきり判ったのに。そこは金色に輝く小部屋なんかじやなく、金箔の剥げ落ちた惨めなとこだったんです。ましてや、あの方なんて居るわけないんですよ。煙にまかれて、チンポ擦りながら、精液撒き散らして焼け死ぬべきだったんです。え?お前は誰だですって?わたしなんか単なる一読者です。もしもし聞いてます?そんなことよりも――

      刑事、客の受話器取る。

刑事 この野郎、おいッ、なめとんのかッ、おい、おい!……

      刑事には電話の発信音しか聞こえない。

客  なにすんの、貸してよ。あたしよ、単なる一読者よ、しっかり聞きなさいよ!――
刑事 おいお前、黙秘権使う気かッ、だれからそんなこと教えてもらった。上等だッ、使うんだったら使え、テメー、無理矢理事件にしたいんだな、どうなんだッ。裁判所の心証悪くなるぞ、それでもいいんだなッ!おい、おい1………
客  いい加減にしてよ。
刑事 君は、誰と話してんだ!?
客  もしもし、聞こえてんでしょ?

      この時、チャンボンの女携帯電話耳につけている。

客  ……
河合 もしもし、もしもし、続けて下さい。
客  どうしたんですか、元気ないようじゃない。
河合 自分はッ!……
客  あのねいっちゃあ悪いけど、そこ今日はねほとんどいないの。
河合 どういうことですか?
客  みんな出かけてんの。どう、驚いた?
河合 そうですか、でもそういわれても、もう遅い。
客  なによ、慌ててんでしょ。落ち着いたふりなんかしても、わかるわよ。
河合 それが定めならば、甘んじて受けましょう。それで。
客  なにそのいいかた、でも、落ち着いてるつもりぐらいにはきこえるわ。いい、そこに残ってんのは百人ぐらいの留守部隊なんですよ。他のね第三十二普通科連隊、精鋭九百名は富士演習場に行ってるんですよ。
河合 なにいッ!
客  あなたのいう武士なんてそこにはいないんです。
河合 どうしてだ、それを誰から聞いた、いってみろッ!
客  (笑い)そうなっているんだから、仕方ないじゃない。
河合 そうか、仕方なかったんだな……
客  だから、コーヒー届けられないんです。
チャンボンの女 わかりました。そういうことであれば、諦めましょう。
客  残念ですが……
チャンボンの女 改めてお願いがあります。
客  え?
チャンボンの女 あなたはわたしの読者でしたね。
客  ええ。
チャンボンの女 わたしの自死の設計はここに頓挫します。あなたは、富士を背に、昇り来る日輪を拝し、わたしの読者で在りつづけてください。

      バチンと携帯電話を切る。
      博多チャンボンを吹く。

客  切るな、切らないで。お願い、もしもし、モシモシ、モシモシ、なにいってるのよ。そんなことできるわけないじやない。

      ガチャリと意を決して受話器を切る。

河合 もしもし、もしもし、もしもし……
チャンボンの女 (客へ壕を示す)お約束のものです。一九七〇年一一月二十五日、自衛隊市ケ谷駐屯地バルコニーの砂。
客  あれは、あの……
チャンボンの女 一九五〇年七月二日、金閣寺全焼の灰。
客  ええ、そのサービス品。まだあります?
チャンボンの女 すいません。先日のものが最後でした。
客  そうですか。

      チャンボンの女、博多チャンボンを吹く。

河合 あの、よかったら、コーヒーもらえるかな。
客  レギュラーでいいですか?
河合 そうだなあ、アメリカンにしよう。あ、お冷もくだざい。
客  はい。
河合 なにか、匂うなあ。なにが匂うんだろうなあ。やな雰囲気だなあ、六感に頼っちやダメで足で稼いで裏を取れが鉄則のこの俺だけど、この場合、どうしようかなあ。
銀行員 ……匂うかなあ、そうかなあ。
客  変なこといわないで下さい。客商売やってんですよ。
銀行員 ……
刑事 なにかわかんねえが、あんた、特に怪しいんだよッ!
客  なにいってんですか。
刑事 (拡声器で)動くなッ!
銀行員 (両手を上げて、悲鳴)……

      刑事は、ポケットに手を入れ、拳銃を構えてるといった程。

刑事 動くなッ!それでいい。ようしそうだ、動くんじやない。いわれたとうりにしてて下さいよ。

      が、客は下手に退場。チャンボンの女も座る。

銀行員 ギン、ギン、銀行強盗1'
刑事静かにするんだッ!
銀行員 あたしは、あたしは、お金、お金、持ってません。あたし普通の女の子です。真面目に働いています。結構、人に親切です。内弁慶なだけです。A型。
刑事 なんだあ。
銀行員 いいます。マル優やってます。六十七歳名義の架空口座です。銀行員の風上にもおけません。
刑事 それで。
銀行員 隠してました。ルイ・ヴィトン持ってます。五十万、一点豪華主義、そのカバンだけです。でも、ささやかで慎ましいわたしです。みんなそういいます。満足してます。そんなわたしにも夢も希望もあります、が、ほんとうはありません。たまに、電話で長話しすることはありますが二時間を限度にしてます。駅前でもらうティッシュ持って帰ってます。朝、起きての化粧さぼったことないんです。高二のとき、匂いつき消しゴム、万引きー回きり、時効。ドリカム嫌いです。財布にはコンドームいつも入れてます。……お芝居ほんとうによく観に行きます。
刑事 普通じやないか。
銀行員 そうなんです。ですから、殺さないで!
刑事 それが、その普通ってのが気にいらねえ。臭えなあ、そうだろうッ!
銀行員 (悲鳴)……
人工心臓 ゴホゴホ、おい、あんた殺し屋か?
刑事 なんだと。
人工心臓 一見して殺し屋と判る殺し屋なんて珍しいと思うんだ。普通、殺し屋ってのは大衆の海に潜って、そうだなあ、あのオッサンみたいなんだけど、どうだい。
河合 またかい。この前は童話作家だった。その冗談聞き飽きたよ。いったいわたしは何人に化ければいいのかい。
刑事 あのなあ――
人工心臓 いいってッ! わかってるんでありますでございますよ。なんだかスリルだよな。緊張感濃いよなあ! ありがとうよ、わかってくれて。
刑事 おおそうかい。
人工心臓 付き合いいいじやねえか。ありがとうよ。だから、もう心配いらねえ。二人で盛り上げようぜ。なにせ、俺には時間がないんだ。
刑事 わたしだってだなあ、暇つぶししてんじやない。
人工心臓 気が合うなあ。ありがとうよ。合ったところで、五分五分とはいわない、ここまで段取り取ってくれたんだから、四分六。手工打ってくれ。
刑事 なんの話ししてんだよ。
人工心臓 お、そうでるかい。解った、悪かった、もういうな。俺が三だ。
刑事 ああ、そうかい。一体、なにやりたいんだ。やってみろッ!
人工心臓 しらばっくれて、だがありがとうよ。と、いうことだ(と椅子を振りかぶる)1・おとなしく三千万と七千万力バンに入れて持って来いッ。
銀行員 (悲鳴)……
刑事 なんだと!?
人工心臓 ♪(と椅子を振りかぶったポーズで歌う)二人を夕闇がつつむ、この窓辺に、明日も素晴らしい幸せが来るだろ♂£ぼ』♪。
河合 ……おいッ!その金どうすんだ!
人工心臓 まずおとなしくしろ! オイ相棒なにしてんだ。みんなに手え上げさせんだ。早くやってくれ!
刑事 それで、手を上げさせて、どうすんだ。
人工心臓 これを持つんだ、腰入れてだッー

      と、刑事は人工心臓の椅子を差し上げて持った。

人工心臓 ねえちゃんッ、あんたも持ってくれ、なにやってんだよッ。
銀行員 えーっ、手上げてるじゃない。これでいいじゃない。
人工心臓 なにいってんだ、逆立ちしたままじゃダメだ、絶対ダメだ。な、だから、二人で盛り上げようぜ、どうなんだッ!
銀行員 はいッ!

      銀行員、椅子を差し上げて持った。

人工心臓 ありがとうよ。
銀行員 うれしいけど、うれしくないッ!
人工心臓 どうだ、二人で盛り上げると、明日の素晴らしい幸せがみえるだろう。
刑事 ごこまでくりや、もうなんだって見えるッ。だが、アイデンティティーはどっかにスッ飛んじまうぞッ。
河合 そんなことはない、ここが肝心なとこだ。その明日にはどんな夢が拡がってるのか、それをしっかり見てもらいたい。
人工心臓 リキいれるぞッ。
銀行員 だめ、もうだめ。
人工心臓 頼む、盛り上げてくれ。
銀行員 そんなこといわれたって、ダメなものはダメ。
人工心臓 違うッ、息を一瞬止めるんだ。どうだッ。
銀行員 あたしに見えるのは、預金通帳の数字だけよ。それ以外にはなにもみえるかッ。
人工心臓 なんということだ、信じられん。
銀行員 信じれるのは通帳の数字、それ以外信用すな。明日もくそもない。
人工心臓 オイ相棒、見えるよな9‥
刑事 おうよッ、なんだって見えるっていってるだろうが。
人工心臓 そうだ、そのとうりだ。だから、あのウルトラマンが最初に闘った怪獣は?
刑事 ベムラ――・
人工心臓 そうだ。M七八星雲からの使者の初陣に選ばれたのはベムラー。
銀行員 もしもし。
人工心臓 見えたんだなッ。
銀行員 しんどいのよ。
人工心臓 盛り上げてくれ、頼む。わたしには時間がないんだ。
銀行員 いつまでたっても預金通帳の数字だけです。
人工心臓 その数字をゼロと壱の記号に置き換えろ。会員番号八番。
銀行員 国生さゆり。
人工心臓 進んで。
銀行員 長渕剛。
人工心臓 もひとつ。
銀行員 志穂美悦子。
人工心臓 ありがとうよ。
銀行員 ……
人工心臓 ゴホゴホ、動くな1・間違っても非常ベルに手なんか持っていくな。視線下げてろ。相棒、そのヴアチャンにも手え上げてもらってくれや。
刑事 そういうことなんだ。上げてもらいたいんだ。
人工心臓 そんなこと頼んでどうすんだ!・
刑事 ああそうだ、そうだ。オイ、手あげろ!

      女 ↓⊆蠅鮠紊欧襦チャンボンの女も手を上げる。

人工心臓 よしそうだ、ありがとうよ。オイ、こっち見るんじやねえ。お前、目をつむってろ。よし、そうだ。最初からそうしてりや、痛い目みなくてすんだんだぜ。
刑事 で、どうすんだ。
人工心臓 金、そのカバンに人れんだよ。早くしてくれ。三分が勝負、五分でトンズラ、六分でこい
つら人質。
刑事 七分でどうすんだ。
人工心臓 そいつはない。うまくいって、やがてヘリコプターが来てくれるか、銃撃戦だ。銃撃戦だと人質が何人か死にますよ1・
刑事 ソドムになった後でだろ。
人工心臓 (笑う)……
刑事 それで!
人工心臓 その先は天国か地獄だ。
刑事 それで!
刑事・河合 カバンに入れた金どうするんだ!
人工心臓 ……
河合 そうだ、わたしもそれが聞きたかったんだ。
刑事 おとなしくしろ。勝手に無駄口たたかれては困る。状況を、ッキリ認識して頂きたいもんだ。
河合  これは失礼。ついカーッ、いやカーッとまではいかなかったが熱くなってしまった。他意はなかったんだ。どうぞ続けて下さい。
刑事 なんだアー。
人工心臓 ゴホゴホ、上等だ。オッサン、これが目に入らねえのかッ、どうだッ!

      と、ドスを河合に突き付ける。

刑事 いよいよやるかッ。その前に、せっかくだから、金どうするか教えてやるってのはどうだよ。
河合 ホウー、そう願いたいが、これは面白い展開だ。で、これちょっと大きすぎて目に入りません、ぐらいでいかがかな。

      人工心臓、ドスを落とし椅子に走る。

人工心臓 (椅子を持ち上げた)持ち上げました。さあ、そのメスを拾って下さい。
刑事 メスだと。ドスだろうが。
河合 いいんです! さあ、拾いました。
人工心臓 わたしは今、逆立ちをしています。断じて逆立ちをしています。語の厳密な意味でその事を誰も否定することはできない。
河合 真理ですか?
人工心臓 いいえ、わたしの単なる事実です。
刑事 この俺も、もしかして逆立ちをしているのか?
人工心臓 それは、あなた自身が認識すべきことです。
刑事 なんだ――
河合 であるなら!
人工心臓 メスはあなたの目の中に入る。
河合 手のこんだレトリックではないのですか?
人工心臓 であるかどうか、試してみますか。あなたにその勇気があればですが。
河合 といわれても、もう拾ってしまいました。
人工心臓 ありがとうよ。
河合 で?
人工心臓 メスは鏡ではありませんね。
河合 ですね。
人工心臓 では、メスはあなたの目の中に入ることができる。
河合 入れてみましょうか?
刑事 おめえらなに考えてんだッ。
人工心臓 メスは鏡ではありません。すると、あなたの目の前に持っていったメスに映るは逆しまですか。それともあなたが逆しまですか?
河合 メスが逆しまなら、住め(スメ)です。わたしが逆しまなら、メスですね。
人工心臓 (笑い)わたしと同じようにすでにメスが、住んでいる。
河合 さて、どういうことでしょうか。
人工心臓 いともたやすく、メスはあなたの目の中に入ることができた。
銀行員  (悲鳴)イヤイヤ、痛いじやない、死ぬわッ!……
人工心臓 目を上げるな、伏せてろッ!
銀行員 次はわたしの番なの、そうなの!
河合 静かにッ、さあ続けてッ!
銀行員 ……
人工心臓 (笑い)では、メスが逆しまか、あなたが逆しまか、あなたの中のメスが逆しまか、メスの中のあなたが逆しまか。メスに聞いてもらえませんか?
河合 不可能です。
人工心臓 正解です。そのメスの向うには、もう一つのメスの向うがある。やがて、向うは無効に辿り着く。メスヘの無限の問いは無効なのです。
河合 無効の無限地獄ですね。
人工心臓 では、このように逆立ちしている、逆しまのわたしの問いはどうでしょうか。
河合 それはたいへん面白い仮説です。
人工心臓 仮説ではないッ!
河合 なんといいましたか?
人工心臓 逆立ちしているわたしは、この胸にメスを一匹飼っている。こうして逆しまでいるとき、わたしはそのメス(雌)を飼い慣らすことができた。それはたいへん可愛い彼女なのだ。わたしの胸は恋いぐるしさでかきむしられる。甘く辛くやるせないこの思いは、物悲しいこのせつなさは、年月とともに募り、忘却の海を明日へと押しやる。この俺が、あの忘れがたい笑顔を、快活な笑い声の顔にかえることを誰も邪魔することはできないほどに。ああ、そんな彼女が今日のわたしを錯乱させる。
河合 彼女の名前は?
人工心臓 名前?
河合 そう名前。
人工心臓 名前?名前だと、それをこの俺に訊くのか。もうこの胸にメスが住み着いて居るのだ。そのときわたしの心臓はメスなのだ。そのメス(雌)は血流を切り刻む。するとわたしが心臓なのか、心臓がわたしなのか。切り刻まれた血流は、脳を必要としない。この管はADH、この管はカテコールアミン。この二つさえあれば、この頭などなくても、心臓は動い、ていけるのだ。頭がなくてもいいものに名前はない。
刑事 ADH?
河合 抗利尿ホルモン。
刑事 カテコールアミンはッ?
河合 昇圧剤。
人工心臓 すると、やはりこの俺の心臓は俺でないのか?そうなのだな、この胸にメスが住み着くことで、俺の記憶と体は千切れ飛ぶのだな。この人工心臓が俺の記憶を拒絶するかぎり。
河合 だが今、あなたは逆立ちをしている。そのうえ逆しまだ。
人工心臓 そうだ。そうなのだ、そうであるのだ……人工心臓に、記憶を吸い取られるのだ。するとやがて俺は頭のない記憶心臓になるのか。そうしてついに俺は、身体は温かく、呼吸を、脈拍を、循環を、心拍を永久に繰り返す血液採取器官に成り下がるだけなのか。
人工心臓 RHマイナス血液の貴重な物語をつくれるではありませんか。
人工心臓 やめろッ、単なる血液型資源器官になんの物語がいる。人工心臓など、レスピレーターにくれてやれ。
人工心臓 であるならッ!
人工心臓 俺に新しい心臓をよこせッ!

      チャンボンの女、人工心臓に壕を示す。

河合 ……ついにいいましたね。どうですか、楽になりましたか。救われそうですか。自我をその手で鷲掴みにした心地よさは、なにものにも代えがたいものではありませんか。抑圧を跳ねのけるのはついにエゴなのです。よかったではありませんか、全快への兆ですよ。間違いなくまもなくです。だが、ここで安心してはいけない。おわかりですね。こんどこそです。同じあやまちは繰り返さない。それでは皆さん、もう手を椅子を降ろしてもらって結構です。今日はここまでです。お疲れさまでした。

      それぞれ、椅子と手を降ろす。
      人工心臓、チャンボンの女の壕を取り、呑み残りを頭の上からかける。

人工心臓 この俺に新しい心臓をよこせッ!
河合 もう一度ッ!
人工心臓 この俺のために生体から、新しい心臓を持って来るのだッ!
河合 それでいいのですッ、それでこそ間違いないッ!
刑事 そんなにうまくいくかな。
河合 (笑い)なにをいっているのかな?
刑事 見ればわかるだろう。こうでなくちや、このわたしが困る。
人工心臓 三千万だッ、三千万で、この俺に心臓を提供するのは、誰だ。金ならここにある。キャッシュだ。
河合 もういい。今日は終わりだ。終わりにします。
女´◆ 幣个ぁ法帖
人工心臓 世界は、なにでできているか考えたことがあるか?それは火と水と大地によってできているのだ……という話によってできているのだ。だれも火の火たる所以を、水の水たる所以を、大地の大地たる所以を、説き明かしたことがないからだ。ではこのわたしに、火を、水を、大地をくれ、この心臓に耐えうる話をだッ!三千万あるぞ、いまここで、この場で支払ってやる。どうだッ、だれか名乗りを上げるやつはいないのかッ!
河合 (壕を拾っていた)これがなんだというんだ。こんなもの、君の役には立たない。それどころか危険ですらある。解っているのか。

      チャンボンの女、壕の砂を砂時計のように落としている。

チャンボンの女 エゴが目覚めはじめたのです。だって、こうして砂は流れたのですから、もう壕の中には戻れません。
河合 こんなもの、たかが壕ではないか。ただの砂だッ!
チャンボンの女 あの方に買って頂いたときはそうでした。
河合 それでも、なんの変哲もないものだ。
チャンボンの女 いいえ。
河合 ではどう違うッ!
チャンボンの女 SANDGLASSO砂はS否これはGLASSです。二つが一つになればSANDGLASS'それは砂時計なのです。時間が解き放たれたのです。エゴは目覚めるのです。やがて自我は自身を求め、明日を語りはじめるのです。それは自然の摂理です。エゴをいつまでも閉じこめることは誰にもできません。この砂時計は、それに手をかしてあげただけなのです。

     チャンボンの女の砂の落下は続く。

刑事 どうするんだ、だれも名乗りなんか上げないぞ。どうすんだよ。
人工心臓 おお、相棒じやねえか、なんだ。
刑事 いいか、俺が聞いてんだぞ、しっかりしろッ。
人工心臓 なにを?
刑事 しっかりしろ、どうすんだよ。
人工心臓 よかったら、教えてくれ。
刑事 この俺に、聞くんだな。
人工心臓 そうだ、教えてくれ。
刑事 もう七分過ぎたんだよ。
人工心臓 やぱいな。
刑事 落ち着いている場合じゃないだろうが。
人工心臓 取り囲まれたのか。
刑事 そうだ。
人工心臓 どうしよう。
刑事 二つに一つだ。
人工心臓 え?
刑事 投降か、それとも銃撃戦だ。
人工心臓 射ち合って逃げ切れるだろうか。
刑事 なに?
人工心臓 俺たち二人だろうが、先見えてるんじゃないのか。
刑事 投降するのか?
人工心臓 じゃ、どうすんだよ?
刑事 だから考えろ。どうすんだ。
人工心臓 ……
刑事 自決するか?なら、こいつ貸してやってもいいぞ。一瞬だ、引き金を引く勇気だけでいい。そのあとは無し。
人工心臓 人質だ。人質はどこ行った。相棒、人質がいただろう。
刑事 ああいる。ごっそりなッ!
人工心臓 人質盾にして要求のませる。
刑事 どんな要求だ。
人工心臓 逃亡用のヘリコプター用意させんだ。
刑事 どこに逃げるんだ。
人工心臓 それは……
刑事 どこだ?
人工心臓 外国だ。
刑事 外国ってどこなんだ?
人工心臓 それは?
刑事 あてはないのか?
人工心臓 ヘリコプターで外国いけるかッー・
刑事 そうだ、行けるわけがない。どこかの大使館に行ったとして、面倒みてくれるかどうかもわからない。
人工心臓 じゃどうすんだよ。
刑事 自分で決めろ。そうだろうが、肝心なところを人に任せてみろ、ここまできたお前ってなんなんだ、そうなるだろが。
人工心臓 そうだな。
刑事 アイデンティティーなんだよ。
人工心臓 ――投降だッ!
刑事 なんだ?
人工心臓 投降する。
刑事 バカをいえ。
人工心臓 ただの投降じゃない。人質がこっちにはいる。人質盾にして、超法規的処置の要求を政府に突き付ける。
刑事 ホホウー、いい考えだ。そういうふうにくるか。で、その処置ってのはどんな要求だ、教えてくれ。
人工心臓 身の代金一億の拠出。相棒、あんたが七千万、俺が三千万。さらにわれわれに対する法の一切の執行停止。
刑事 いいじゃないか。うまくいきゃ、明日から楽できるぜ。
人工心臓 よし、連絡だ。
刑事 ……待て、待てよ。
人工心臓 なんだ。
刑事 おい、まるまる巧くいったとしてだな、金は有るし、楽しい毎日が待ってる……そうだろうか?
人工心臓 そうよ、どう転んだって高い芝居観にいけるぜ。
刑事 人に会うんだぞ。
人工心臓 真面目に生活する、あたりまえだろ。愛想笑いの一つもなるべく早く覚えて、人づきあいもそつなくこなす。そして質素な生活な。つまりローンの一つや二つは組まねえとだめだろう?その前にクレジットカードがいるぜ。頭痛いぜまったく。
刑事 けっこうなこった。
人工心臓 考えただけでピュアーだぜまったく。まいったまいった、まいりましたでござります。
刑事 薔薇色の世間の白い眼、どうすんだよ。
人工心臓 なんだよそれは?
刑事 隣近所の冷たい視線だよ。世間が俺たち暖かく迎えてくれるとでも思っているのか。
人工心臓 たいしたことはないだろう。
刑事 ワイドショーくるぞ。
人工心臓 本籍、覚えていません。
刑事 そんなもんはカットだッ。つぶされるぞッ。
人工心臓 そうだなあ。
刑事 あぶく銭手に入れたやつなんて、納得できねえよな。税金かすめ取ったんだなんて思われてみろ、受け入れられるわけねえよな。月の出てない闇夜の晩は命いくつあってもたらねえぞッ!どうすんだッ!
人工心臓 そんな世間はッ、そんな世間はッ!
刑事 家の前に生ゴミぶちまけられるわ、有ること無いこといいふらされるわ、米も肉も売ってくれねえわじやどうすんだよ。
人工心臓 淋しいよなあ。いたたまれないよなあ。
刑事 おためごかしの視線に耐えられたとしてもそっからどうすんだよッ!
人工心臓 どうしよう。
刑事 金持ってても、宝の持ち腐れだ。
人工心臓 どうしたらいいんだ。
刑事 考えろッ!
人工心臓 頭カラだ、血液きてないんだ。教えてくれ。
刑事 アイデンティティーはどうした。
人工心臓 頼む、教えてくれ。
刑事 頼むんだな。
人工心臓 そうだ。
刑事 ほんとうか!
人工心臓 ほんとうだ。
刑事 ……
人工心臓 早くしろッ!
刑事 ……ソドムだ。
人工心臓 え?
刑事 ここはソドムなんだよ。だから頑張ってはしいんだよ。俺たちはもうどこにも行けないんだ。そうだろッ。
人工心臓 ああそうだ。
刑事 じゃ、ここでとことん楽しまなくちや。
人工心臓 もうどこにも行けないのか。
刑事 そうなんだ。
人工心臓 人質はッ!
銀行員 (両手を上げる)……
刑事 ゴロゴロいるじやないか。
人工心臓 おとなしくしろッ、手を上げろッ!
銀行員 (悲鳴)……
人工心臓 よーぅしッ、まず、窓際に椅子を積み上げろッ。

      銀行員、河合、チャンボンの女、刑事は椅子を舞台奥に積み上げる。その椅子の数
      個によって、ある造形となる。その中央は人が通れるアーチ型。

人工心臓 愛国行進曲、あじあ号、姉さんかぶり、アルマイトの弁当箱、アンペラ、一膳飯屋、インキスタンド、うたごえ喫茶、駅弁大学、王道楽土、おせんにキャラメル、オールドミス、霞網、かんころ飯、食ってすぐ寝ると牛になる、愚連隊、計算尺、五右衛門風呂、コッペパン、逆さくらげ、千人針、ソノシート、蓄音機、出歯亀……
刑事 視界は遮断した。催涙弾も大丈夫だ。
人工心臓 次は、男はズボン、女はスカートを脱げッ。
刑事 脱いだら、バケツを掻き集め、水をくんで置くんだ。非常用の懐中電灯もここに持ってくるんだ。
人工心臓 すべての食物は供出すること。この俺が一括管理する。
刑事 電話は、この階のみ使用。他の電話のコードは切断する。
人工心臓 あとの指示はおって出す。いいなッ!
刑事 勝手な行動は認めない。
人工心臓 どうなんだッ、わかったのかッ!
人工心臓 (笑い)……
刑事 なにプルってんだよ。
銀行員 震えているように見えたらごめんなさい。本当のところ、恐くないので大丈夫です。心配いりません。武者震いなの。
人工心臓 ねえちゃん、そんな虚勢も長くないから、せいぜいがんぱりなッ。
刑事 わかってんのかッ。
銀行員 (悲鳴)わかってません。
人工心臓 教えてやるよ。お前の心臓、この俺が頂くんだ。
銀行員  (悲鳴)痛いッ。
人工心臓 あたりまえだッ。だがだいじょうぶだ。食ったりしねえから。鼓動やめるまでの間だからよ、大事にするよ。この管を差し込んで、血を頂くだけだ。こんな所で手術できねえんだからよ、すぐごみ箱に捨ててやるよ。ちょっとぐらい、新しい血流してやりてえんだ、いい思いさせてくれよ。ねえちゃんッ!
刑事 いっきにいくか。それもいいが、自尊心、プライドずたずたにしてからにしろよ。
人工心臓 ようし、じゃ並んでもらえ。
刑事 整列だッー'

      銀行員、河合、チャンボンの女並ぶ。
      チャンボンの女、しばらく望遠鏡で遠くを見る。

人工心臓 ねえちゃん、どうだ、助かりたいか。
銀行員 人生あきらめてんです。
刑事 いい覚悟だ、で。
銀行員 痛いのがいやッ!
刑事 なにか考えてろ、すぐ終わる。
銀行員 いやよッ。
人工心臓 そんなに痛いのがいやか、じゃ助けてやろうか。
銀行員 ええ神様……
刑事 じゃ、助かってなにしたいんだよ。いってみろッ。
銀行員 アムラーで、東京ディズニーランドニ泊三日。もち、プリンスホテルよ。
人工心臓 なんだそれ?

     刑事、落ちていたドスを拾う。

刑事 なんでもいいッ。もういい、俺がやるッ。それやりてえんなら誰かの心臓、こいつで挾り出してこいッ。
人工心臓 俺にむけるなッ。
銀行員  (悲鳴)……
刑事 悲鳴上げてる暇ねえよ。自分の心臓でいいのかッ。
銀行員 ……いい、いいんだあたし。
刑事 ウソをいえッ。
銀行員 手えうってんだもの。貸してよ。

      と、刑事のドスを取る。

銀行員 あたしの手首のここにこれ置くでしょ、こうして引くの。ウッ、ちょっと痛いの、あたしが生きてるから。でもね、血はまだ出ないの。もうすぐこの小っちやな傷口から血が漆みでてくるわ、その時が一番痛いの。それからズンズン痛くなっていくの。いつもそうだったわ。そんな経験ない。
刑事 ねえよッ。おい、助かりたくないのかッ!
銀行員 助かりたいわよ。だからって、はいどうぞって助けてくれるの。助けてくれるんなら、このままほっといてよ。あたしを人殺しにして助けてくれても、あたし困るもん。
刑事 泣くなッ、仕方なかったんです、正当防衛です、無理矢理でした、操奪われそうだった、あの場合だれだってそうしてます、極限状況でした、錯乱のパニック、戦場と同じです、あなたはどこに立ってそんなこといってるんですか、えッまだいおうか、なんだっていえるだろうが。
銀行員 もういいもん。
刑事 なにがいいんだッ。
銀行員 傷害保険と生命保険かけてるもん。
刑事 それがどうした。
銀行員 あんたが刺すの、それともあんた。どっちでもいいけど、あたしが痛いっていう前に、ズンズン痛くなってくる前にあたしの心臓取り出してよね。それまでだったら絶対我慢してみるから。ちょっとでも遅れたら、大声出して、血反吐をこの辺りに、あんたにも、あんたにも吐きかけて、苦しい悶絶の顔あんたらの目に焼き付けて、ご飯食べられないようにしてやるから。餓死させてやるんだから。
河合・人工心臓 (嘔吐)……
刑事 よくわかったよ。いい覚悟だッ。
銀行員 なによ、あんたなんか震えているじゃない、痛かったらいやだっていってるのよ。しっかりしてよね。
刑事 やっぱり助かりたいんだろ。そうだろッ!
銀行員 傷害保険と生命保険、ガッポリ人ったら定期にしよう。通帳の数字増やしまくるんだ。マル優もうーつつくるんだ。絶対つくるんだ。
刑事 いいかげんにしろよッ、死んでしまえば終わりだよ。心配するな。それにな俺が失敗しても、相棒がすぐさま始末するよ、痛いなんて思うひまはねえ、そうだろう相棒ッ。
人工心臓 おおそうだッ。
銀行員 うそだッ、じゃだれが通帳のお金確認するの。
人工心臓 わたしがするんだよ。君の血でわたしの人工心臓は生き返るのだ。残された君の人生わたしが生きてあげる。君のを、わたしが物語ってあげる。君はわたしのなかで新たに生きはじめるんだ。
銀行員 いやよ。でも死なないと、傷害保険と生命保険はいらないんだ。どうしたらいいの、ねえどうしたらいいのよ。
刑事 いいじゃないか。君のアイデンティティーは、君が死ぬことで、相棒のなかに飛躍的に増大して蘇るんだ。
人工心臓 死ぬことで生きてみろッ!
刑事 いいじゃないか。実にいい。

      カウンターの電話鳴る。
      電話に視線を投げる刑事と人工心臓。
      人工心臓、呼び出し音につられて、受話器ににじり寄っていた。
      注目するチャンボンの女。

刑事 ……安心しただろうが。こんなとこに、いつまでいたってどうにもならんぞ。な、死んで生きろ。

      プツリと呼び出し音切れる。

刑事 (間)この俺が語り継いでやる。素晴らしい銀行員がいたことを、その身を捧げて多くの人々の命を救った銀行員のいたことを、預金通帳の数字に人格を置きながらも、ついに語り継がれる歴史の大海に漕ぎだしていった女がいたことを、この俺が語り継いでやる。夢と冒険に満ちたロマンとして語りついでやろう。……その女に自己犠牲の尊さを教え諭した非凡な刑事の伝説とともに。

      公衆電話鳴る。
      電話に視線を投げる刑事と人工心臓。
      人工心臓、呼び出し音につられて、受話器ににじり寄っていた。
      近づくチャンボンの女。
      呼び出し音切れる。

刑事 (間)刑事は、その男は片時も女のそぱを離れることはなかった。女の幾度の逡巡にもかかわらず男は献身的に自己犠牲の崇高な尊さを、それを行使する人間精神の偉大な価値を説き続けた。男は、物語られてきた人間の尊厳、人々の心を深くとらえて離さぬ嵐のような感銘と興奮、子々孫々受け継がれるであろう倫理と道徳は、すべて自己犠牲によって可能だと説いた。それが愛だと説いた。男は男の名誉にかけて説得を続けた。
銀行員 もういい、わかったッ、もういいわよッ!

        カウンターの電話鳴る。
        電話に視線を投げる刑事と人工心臓。
        最接近のチャンボンの女。

刑事 ……ありがとう。わたしはいま初めて、刑事をやってきて良かったと思っている。いいや嘘じゃない。この殺人の避けられない現場で、刑事としての幸せを噛み締めている。真の刑事とは、やはり最後の最後まで身を挺して、避けられぬ殺人であればこそ、単なる死を意義ある死に高め、昇華せざるをえないのだと。ありがとう。

        チャンボンの女、受話器を取る。
        同時に音楽。
j       人工心臓、チャンボンの女から受話器を取る。

刑事 君の自己犠牲はこのわたしすら救ったのだ、ありがとう。思うに、この感動を、わたしの探し求めてきた、明文化されないわたしのアイデンティティーにしたい。
人工心臓 もしもし、あなたのおかけになった社会党は社会民主党にかわりました。番号をお確かめのうえ自民党におかけ直し下さい。

        間。

人工心臓 (笑い)もしもし新智江さん。冗談ですよ、冗談、ちょっときつかったですか。さていかがですか、待合室で起こる殺人。テーマはこの死体からの臓器官移植。殺人を愛と自己犠牲のフィールドで語り、もって臓器官移植の抵抗感除去ならびに啓蒙。啓蒙は物語へ昇華する。どうですプロット盛り沢山で、テーマも重層化するでしょ。視聴率稼げると思いますよ。この企画買えるでしょ、お願いしますよ。えっ、メチャクチャじゃないかですって、ええ、ええ、まあ取り政えず企画書は迭らせてもらいます。

      人工心臓、しゃべり続ける。

刑事 相棒、準備完了だ。やるぞッ!

      刑事、人工心臓にドス渡す。受話器を受け取る刑事。

人工心臓 (ドスを受話器がわりに会話を続けている様子)……
刑事 さて、恐怖とはなにか。それは理由もなく目的もなく確かな動機も存在しないという事象が存在するというなかに隠されています。この事象が、社会的な出来事であろうと日常の些細な出来事であろうと変わることはありません。古来、われわれの祖先はこれをのっぺらぽうと称して観念のなかで実体化してきたといえます。現代では人格破綻として病理学的に問われますが、本官の職務範囲の市井においては広く、アイデンティティーの喪失としてとらえることができます。本官はこれを許容できないのであります。お言葉ではありましたが、本官はやはり、事件の解決とは、事件を、真に事件たらしめるための理由、目的、確かな動機こそ、犯人がまず獲得するを要件とせざるをえない、と考えるものであります。したがいまして本官が職務に邁進するとは、事件発生あらぱ駆け付け、犯人にアイデンティティーの獲得をすみやかに遂行させ、被害者の合意のもとに、人々の納得できる明るい事件として、社会に提出することにあります。このようにして事件は、現代が問う課題の本質を照らす鏡たりうると考えるのであります。報告申し上げますが、この待合室でのシュミレーションによって、わたしのこの確信はますますゆるぎないものとなったと申せるのであります。

      と、刑事の電話は続く。
      このとき、河合は舞台前中央にでて煙草を爛らせていた。

河合 皆さん、いかがだったでしょうか。十分にご覧頂け、またご理解頂けましたでしょうか。ぽつぽつよろしいのではと思います。このように、ヴァチャン・機動装置を二基配して行なう精神療法は、わたくしの友人の行なう箱庭療法にヒントを得、その実践版として命の電話の相談に応用したものです。ご覧いただきましたように、このように、このように、そしてまたこのように一人格が抱える病理とは現在、かくも複雑怪奇、多層的に重層化されたものです。この複雑に絡み合った糸を、一つ一つ解きほぐしていくには、大げさに申し上げますが現代文明が抱える病理にメスを入れるに等しいと申せます。現代文明が抱える病理とは、その文明の高度化の内にその文明を否定するものを生み出さずにはおかないということにあります。ちやちな弁証法を寄せ付けないのであります。わたしはこれをレスピレーター現象と呼び、このヴァーチャル機動装置を使用する実践療法を、ヴァーチャル・レスピレーターシステムと名付けたのです。現在このヴァーチャル・レスピレーターシステムは、各方面各分野からの注目をあびるにいたっております。なかでも演劇人からの注目が著しく、演技指導に赴くこと枚挙にいとまがない、というのが実情なのであります。

      と、人工心臓、刑事、河合の台詞は重なる。

銀行員 あたしは、あたしは、お金、お金、持ってません。あたし普通の女の子です。真面目に働いています。結構、人に親切です。内弁慶なだけです。A型。いいます。マル優やってます。六十七歳名義の架空口座です。銀行員の風上にもおけません。隠してました。ルイ・ヴィトン持ってます。五十万、一点豪華主義、そのカバンだけです。でも、ささやかで慎ましいわたしです。みんなそういいます。満足してます。そんなわたしにも夢も希望もあります、が、ほんとうはありません。たまに、電話で長話しすることはありますが二時間を限度にしてます。駅前でもらうティッシュ持って帰ってます。朝、起きての化粧さぽったことないんです。高二のとき匂いつき消しゴム、万引きー回きり、時効。ドリカム嫌いです。財布にはコンドームいつも入れてます。……お芝居ほんとうによく観に行きます。

      銀行員の台詞も、人工心臓、刑事、河合の台詞は重なる

女 \遒藁れて……

        『花」 (歌・石嶺聡子)静かに入る。

女◆,匹海匹街圓の……
女 /佑藁れてどこどこ行くの……
女◆,修鵑蔑れがつくころには……
女 _屬箸靴堂屬箸靴萄蕕せてあげたい……
女´◆  閉垢ぞ个ぁ法帖

     銀行員、人工心臓、刑事、河合の台詞、音楽のなか続く。女 ⊇△両个い修譴膨垢重なる。
     チャンボンの女、チャンポン吹く。

女 ,匹Δ靴燭鵑世ぁ
女◆,覆なかだねえ。
女 ,靴辰り見せてもらった。
女◆,Δ鵝△Δ鵝
女 ,泙襪如△芝居みたいじやないかい。
女◆,Δ鵝△Δ鵝
女 ,世ー
女◆,覆なかだねえ。
女 ,修Δ覆なか。
女◆,修Δ覆なか。
女´◆,任皀叩――
女◆.皀離タリは
女 ,い弔砲覆辰燭藥呂泙襪鵑世!!
女◆,海譴モノガタリかいッ
女 ,修Δい?

      チャンボンの女、チャンポン吹く。

チャンボンの女 準備は整ったようです。
女´◆ 幣个ぁ法帖
チャンボンの女 レスピレーターがシステムになったのです。
女´◆ 帖
チャンボンの女 レスピレーターを起動させシステムを動かすのです。
女´◆,┘叩
チャンボンの女 その時こそ――
客 お待たせしました。

      音楽CO。
      客、椅子のレスピレーターのなかいる。客の持つトレーに水の入ったコップ数個ある。
      同時に銀行員、人工心臓、刑事、河合の台詞も中絶。
      チャンボンの女、コップ取る。客、他は配る。

チャンボンの女 物語ります。システムを食い破れるかもしれません。

      と、コップの水を呑む。

女´◆,覆砲鯑櫃鵑瀬!!
チャンボンの女 命の水だとしたら………

      客、銀行員、人工心臓、刑事、河合もコップの水を呑んでいた。

女´◆,覆砲鯑櫃鵑瀬!! なにを呑んだッ!!
河合 さて……複雑怪奇な人格だとしたら……
女´◆,覆砲鯑櫃鵑瀬辰圈
刑事 明文化されぬわたしのアイデンティティー……
銀行員 、自己犠牲だったりして……
客  届けそこなった出前の水。
女´◆,覆砲鯑櫃鵑瀬辰圈
人工心臓 群馬県御巣鷹山の土!

女´◆,覆砲鯑櫃鵑瀬辰圈

      多くの携帯電話、公衆電話、カウンターの電話鳴る、鳴る、鳴る。
      汽笛ふえふく。チャンボンの女、ホイッスル吹く。
      同時に音楽。
      椅子で作られたレスピレーター分解し飛んで消える。
      チャンボンの女、レスピレーター中にいる。
チャンボンの女 風、流れ
    鳥、うたう。
    梢の木漏れ日、せせらぎの音。
    潮騒。
    波頭のきら94J'夕日のなかでヽ金色に踊る・
    なにもかもが紅に染まったあの日
    あれはもう、帰らぬ昨日なのか。
    古の思い出……
    過ぎていった夢なのか。
    過ぎていった……

      汽笛ふえふく。

    ヘッドライト、
    蜃気楼。
    小雨に煙る、
    幹線道路。
    蹴たてる水飛沫。
    行く手を洗い流せ、
    すべてを砕いて踏み漬せ。
    あれはもう、帰らぬ昨日なのか。
    古の思い出……。
    過ぎていった夢なのか。
    過ぎていった……

      音楽CUT。人々一斉に喋り始める。
      大きく音楽。
      人々ストップモーション。
      照明色々変わる。
      音楽CUT。人々一斉に喋り始める。
      大きく音楽。
      人々ストップモーション。
      照明色々変わる。
      そしてシルエット。
      音楽大きくなるなか容暗。

[  エピローグ  ]

      毎待合室。
      芝居明かりではない明かり。
      朽ちたようにレスピレーターある。
      チャンボンの女、レスピレーターのなかにいる。
      女 ⊇∈造辰討い襦

女 ,佑無駄話していい。
女◆,修Δ佑─
女 ,△蠅修任覆い發痢
女◆‐湘沈算劼離丱好函(間)ありそでないもの。
女 /佑凌粥帖賃燭のことがあったわ。いろんなことが、数えきれないくらいにね。あれ以来よ。「この人間世界を見渡すに、かしこき人あり、おろかなる人あり、貧しきもあり、富めるもあり、貴人もあり、下人もありて」……豊かになって、また豊かになって、そうしてどうしようもなくなったのね。……終わり。だからね、心がね
女◆,△鵑燭修鵑覆海箸い辰特僂困しくない。
女 ,海鵑匹錣諭△發Π譴弔了呂泙蠅世箸靴燭蕁
女◆,修譴亙語ね。
女 )榲かしら?
女◆仝僂辰討澆燭蕁∨榲かどうかわかるわ。

      女 ⊇△呂修譴召貅身を狐る。
      女 ⊇向き合う。立って対峙する。
      女 ⊇△遼砲鬚気錣襦
      女◆⊇,遼砲鬚気錣襦

女 ,匹Α
女◆ 帖

      女 ⊇△遼砲鮓僂襦
      女◆⊇,遼砲鮓僂襦

女 …砲ぁ
女◆…砲ぁ

      女 ⊇△遼砲鮓僂襦
      女◆⊇,遼砲鮓僂襦

女 …砲ぁ
女◆…砲ぁ
女 …砲ないわ。あんたは?
女◆…砲ないわ。あんたは?

      女 ⊇懐から、貝のカラに入ったクレンジングクリームを出し、メイクを落と
      し始める。メイクの落とし具合にあわせて明かりは芝居明かりになる。
      メイクを落としての対峙。
      女 ⊇△遼砲鮑里襦
      女◆⊇,遼砲鮑里襦

女 ,匹Α
女◆,△鵑燭蓮
女´◆ 帖

      女 ⊇△遼砲鬟咼鵐拭
      ピンクの大きな音で、音楽CI。

女 ,匹Δ覆里茵

      女◆⊇,遼砲鬟咼鵐拭

女◆,△鵑燭呂匹Δ覆里茵

       女 ⊇△遼砲鬟咼鵐拭

女,△蠅修任覆い發痢どうなのよッ!
女◆(語。

      女◆⊇,遼砲鬟咼鵐拭

女,覆気修任△襪發痢どうなのよッ!
女◆(語。

      女 ⊇△遼砲鬟咼鵐拭

女 ,匹Δ覆里茵・

      女◆⊇,遼砲鬟咼鵐拭

女◆,△鵑燭呂匹Δ覆里茵

       チャンボンの女、舞台前に駆けでる。チャンボンを吹く。
【一 一二
ロ ーニ】
チャンボンの女 ホラ、みえますか?北斗七星、杓の左上のほう→ 一つの彗星です。この地球に最接近します。まもなく八千年の旅を終え、再び、一万四千年の旅に出るのです。やがて太陽に最接近し、遠ざかっていく。そのとき太陽の熱で、蛋白質は生まれるでしょうか。可能性がないとはいえません。そうなら、その可能性は、生命を育むでしょうか。

      音楽大きくなる。
      チャンボンの女、汽笛ふえ吹く。
      容暗。
      音楽大きくなる。
      幕。

      次の書籍等を参考にしました。列記して謝意を表します。
      『ロミオとジュリエット』中野好央訳・新潮文庫
      『喪の途上にて』野田正彰・岩波書店
      『脳死』立花隆・中央公論社
      『花』作詩/作曲喜納昌吉

[  後記  ]

 脳死と植物状態の違いを明確に教えてもらったのは、立花隆の「脳死』であったが、それにもましてレスピレーターの位置がその本を離れても、明確な像を、わたしの考える物語の上に結ぶプロセスは刺激的であった。それは、台本の中に書き込めたと今のところ思っているのだが、またしても演劇外の刺激からわたしの演劇を手繰るという回路を成立させてしっまったという感が強い。常に演劇外に、やはり、今のところ「なにかは」ある。
 このレスピレーターという像が登場しないなら、前回公演『心がわり」のラストシーンで差し出された手紙の中に書かれていたであろう「ヴーチャル」という文字がそれに変わったであろう。今はレスピレーターとなった「ヴーチャル」がまだヴーチャルであったころ、今年の一月であったが、次のようにその企画書を提出したのだった。

   [台本・演出段階の企画意図として]

 一年ぶりのテントである。また一月一七日もそのようにして来た。
 ここにはなんの関係もない。そのように起とうと思う。
 が、様々メディアでかまぴすしい。曰く「阪神大震災と演劇」、日く「被災者にとって演劇とは」。この「演劇」をなにに置き換えてもかまわない。
 問題は問い自体にあるのではない。単なる二元論として、「政治と文学」として、「文学は飢えた子のまえで有効か」としての手垢のついた問いなどとして片付けることなど、なんの興味もひかない。問題があるとすれ、仮に論理的に決着したものが、またぞろ登場する根拠はどこにあるのか。
 仮にこのわたしの問いすら手垢のついたものとしても、次の場面には少々立ち止まってしまう。「阪神大震災」一年後ということでのNHKの特集番組。画面は倒壊を免れた病院。被災による重傷者が数多くいる。騒然とした病室。ベッドヘ横たわった人へ、三人の医師が人工呼吸をしている。

   医局長らしき人物が三人の医師にいう。
    「どれだけ、人口呼吸何分になる」
   三人の医師のうちの一人が答える。
    「十五分です」
   医局長。
    「止めて、他に回れ。助かる人もたすからん」

 医学的に十五分とういう時間がどのような意味を持つのかわたしは知らない。しかし、ここでは一つの選択が行なわれた。いかなる価値に基づきその選択は行なわれたのか。その価値は、いかなる情報によって支えられているのか。その情報はどのような歴史性を持っているのか。つまるところ、このような物語が展開されるにはいかなるリアリティーが必要なのか。興味はつきない。
 リアリティーということで先に進もう。
 第三五回テント興行の〈企画意図〉をわたしは次のように書いた。

    物語とは何かと問うとき、柄谷行人は「制度」である、といいきる。
    さてわれわれにとって、制度とはなにか?いわずもがなそれはテントである。再びさて、物語が死滅してすでに久しい。遠くはジヤン・ジュネの『女中たち」の初演の序文のなかに、またベケットに見て取ることはできた。ポスト構造主義の整理を待つまでもなく、相対主義はお話を許さず、形而上学の不可能性は個のアイデンティテーすら迷路に叩きこんだことに頷首せざるをえない。ここで表現の不可能性に言及することは不毛である。この地平にあって演技とはなにか、と問おう。この発想が企画の出発である。
    具体的に問うなら、演技はいかなる役者体に加担し、関係し、一体し、それ自身であることによって、物語という「制度」として「制度」を私有できるのか。話は簡単であるのだが、今日、演技であることのリアリテイーとは何か、ということである。

 マニフェストであるといえる。またマニフェストでしかないといえる。したがって今回は、次のようにいおう。
 われわれはテントによって舞台を支えている。それが旅というわれわれの制度である。が、旅が度というのは形容矛盾なのだ。考えてみてほしい。旅とは時間を解き放つこと。論証するまでもなく旅と制度が敵対概念なのはわれわれがいちぱん知っている。
 だが、旅というわれわれの制度である。換言すれば旅を制度化することによってテントが舞台を支えることを可能にする。これは明らかに物語の物神化というほかない。この過程が自ずと公演地の固定化をもたらすことは言を待たない。
 問いをこのように立てよう。舞台を支えるものは舞台であると。正確には演技のみが舞台を支えると。
 これは物語の死滅後の一つの選択にすぎない。
 上記の医師の一つの選択に等価である。医師が選択しないとは、すべての命を救うと決意することだが、この決意はまた、すべての命を失う事態を黙許せざるをえない決意である。
 わたしは旅も、テントも、舞台も救おうなどという傲慢は捨ててすでに久しいと思う。
 さて演技することのリアリティーとは、である。
 わたしはこの行為することのリアリティーを求めて、物語の死滅を語りたいと思う。それに交差して立ち上がる世界を握造したいと考えている。その世界を物語と呼ぶかどうかは定かではない。
 『レスピレーター』はこうして始まる。

 [内容]

 物語を語ろうと思う。現代において現代に桔抗しうる物語。
 ここではわたしたちの現状を、レスピレーター使用状態と位置付けている。われわれの現代にこの概念を差し込むことによって、思想的かつ演劇的課題そのものを明確化しようとする試みである。
 さて、われわれの現代の課題とはなにか。概括するなら、文明そのものの発達と高度化が、その発達と高度化のうちに文明そのものを否定する契機を孕まざるをえない、という構造、そのものである。これは文明の現代性である。
 この状態をパラレルに浮かびあがらせるのが人工呼吸器に見て取ることができるのだ。人工呼吸器の登場と発達は、死の概念規定を揺るがせたのみにとどまらず、生そのものを問っている。機器の発達が、死を切り崩す、生を切り崩す。臓器移植とのからみでいえば、生命救済の機器が、脳死という状態を保障し、生の幅を縮小する。

 [ストーリー]

 ここは「夢見通り商店街」である。
 待合室。
 待つことは、そのうちに出発を含んでいる。待つことは待つこと自体によって、その行為を完了しない。待つことは出発することによって、自らを否定することによって、自身を完了する。このパラドキシカルを含む場こそ待合室。言葉を換えれば、待合室とはレスピレーターのことである、ともいえる。生命救出の機器としてのレスピレーターが、脳死という状態を保障する。また、未知座小劇場にとってテントとは、課題としてそのようなものであるということができる。
 このような場から「レスピレーター』は出発する。
 ここは、銀行の待合室、病院の待合室、茶店等々が交差している。色々な人が来る。そして去る。ここでは実現しない夢が語られるだろう。しかし物語は語られない。物語を語ることを待合室は許さない。物語は待合室になじまない。待合室はついに訪れることがないであろう出発を夢見て、待つことに埋没することを強いるのだから。では、現代において待つことは、待つことを続けることなのか。ここまでであれば、ベケットの『ゴドーを待ちながら』である。
 『レスピレーター」では、ここに出発を収奪された幽霊のジュリエットと幽霊の眠れる森のオーロラ姫を登場させる。この老婆たちは、腹いせに芽を葺く物語をつぶしていくことをその生業としている。
 さて、このとき物語は、待合室は、その反動の力学を発揮するであろうか。筆者はこの反動の力学を最大限に願う者であるため、さらに物語販売テレホンショッピングコーディネーターを舞台へ派遣した。この派遣は正統である。現代の物語の不可能性を考慮すれば、十分に許される戦略である。
 しかし筆者は、すこし遠慮して禁じ手を自身に熹した。それはテントでの舞台でありながらテントの利点を一切使わない、ということである。
 さて、待合室の人々は、物語の不可能性とどのように絡むであろうか。幽霊のジュリエットと幽霊の眠れる森のオーロラ姫に打ち勝つであろうか。こうご期待である。

 以上、この『レスピレーター』は未知座小劇場がする明日の『ゴドーを待ちながら』ということができる。また未知座小劇場がする最後の物語論演劇である。
 上記が『レスピレーター』よりも長い時間をかけて書いてきたことになる企画書なのだが、長い時間ということになると一九八九年の『ペンディコステジャパン』での「もう物語は終わった」という台詞が想い起こせる。いってしまえば「もう物語は終わった」は終わった。
 てらいもなく綴るのだが、次からは「物語」ということになる。(1996.04.27)

企画名 未知座小劇場第三十六回テント興行
 題名 『レスピレーター』
  作 闇黒光
 発行 未知座小劇場
発行日 一九九六年四月二十七日
連絡先 八尾市佐堂町二の二の十七
 電話 0729・96・5078
 定価 一五〇〇円



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